近年,制御理論の分野においてデータ駆動型制御器設計法が注目を集めています。 近年の計算機能力の劇的な向上に伴い,データサイエンスが注目を浴びていますが, このデータ駆動型制御器設計法はデータサイエンスと制御工学の融合と言うことができると思います。 これまで制御理論の理論的研究の中心であったモデルに基づいた制御器設計法(モデルベース)とは異なり, 制御対象の数式モデルを用いることなく,制御対象の入出力データのみから制御器を設計・調整する アプローチです。モデルを用いないため,①入出力データから数式モデルを導出するシステム同定の 手順を省略することができる,②モデル化誤差の影響を受けず,制御対象の生の情報を設計に利用できる, などの利点を有しています。 主な応用先としては,サーボドライバなどのオートチューニングなどが考えられます。 既存の制御系において,制御対象の特性変動に対し,制御対象の入手力データを取得するだけで 制御器の再調整が可能となり,制御エンジニアにとって有用なツールになるものと考えています。 現在の研究課題として,①データに含まれる雑音に不感な制御器調整法の開発,②安定性の保証, ③切り替え型制御器やゲインスケジューリング制御器への拡張,④モデルベースとの融合,などに取り組んでいます。
産業界では位置制御を用いたロボットによる製品生産が実用化されています。 しかし,人や物との接触を伴う作業には位置制御に加えて力制御が必要です。 力制御ではロボットと接触対象(環境)との間に生じる力を制御します。 この力制御においては,接触する環境によって制御系の特性が変化します。 したがって,多様な作業で所望の力制御特性を実現するためには,環境に合わせて適応的に制御器を変化させることが望ましいです。 そこで,本研究では事前に取得した入出力データを用いて,機械学習によって環境に合わせて制御器を変化させる手法を研究しています。
上図のコンセプトのように提案手法では,事前取得したデータを機械学習の一種であるクラスタリングにより環境特性ごとに分類します。 そして,分類したデータごとにデータ駆動型制御器設計法の一種であるVRFT(Virtual Reference Feedback Tuning)を適用することで,それぞれの環境に適した制御器を得ます。 さらに,機械学習の一種であるSVM(Support Vector Machine)を利用することで,現在の環境特性を判別することができます。 これにより,作業中に環境特性が変化した場合にも適切な制御器に変化させることで,所望の力制御特性を維持します。
制御対象の数式モデルを使用せず,制御対象の入出力データを直接用いて制御器を設計するデータ駆動型制御器設計法が近年盛んに研究されている。 この手法は,制御対象の動特性の情報を直接制御器設計に反映できる。 また,固定構造の制御器設計にも適すといった利点がある。 データ駆動型制御器設計法では参照モデルを必要とするモデル参照制御問題が中心に扱われる。 参照モデルとは,制御器の設計者が選定する実現したい理想のシステムのことである。参照モデルを適切に選定しないと制御対象が不安定化し、望みの制御仕様を実現することが困難となる場合がある。 また,参照モデルの選定において設計者は労力が伴う。
そこで本研究では,参照モデルを必要としないデータ駆動型制御器設計法の実現を目的とする。 さらに,本研究では混合感度問題と呼ばれる設計問題を扱うことができ,性能と安定性の保証を同時に達成することが可能となる。 現在,本研究の有効性をシミュレーションにて確認を行い,今後は実機実験により有効性を明らかにする。
高校や大学の授業で,運動方程式や力のつり合いの式などから,ある物体の運動を数式で表現したことはないでしょうか? このようにある対象のふるまいの特徴を取り出すことを「モデリング」,特徴を表す数式を「数学モデル」とよびます。 高度なモデリング(特徴をよく反映する数学モデルの構築)には,設計者の高度な知識や経験が要求されます。 そこで,数学モデルを用いることなく,簡易に制御器を設計する手法であるデータ駆動型制御器設計法が研究されています。
しかし,数学モデルを用いないことは利点にもなりますが,欠点にもなり得ます。 たとえば,上左図に示す安定性の尺度である安定余裕は制御対象の数学モデルを用いて定義されるので,数学モデルを用いないデータ駆動型制御器設計法では安定余裕の評価が困難となります。 そこで私は安定余裕を考慮可能なデータ駆動型制御器設計法について研究を行っています。