A Study of English Education in Malaysia
(マレーシアの英語教育)

69期 AII 類 M. W.

Introduction

 高校生の時、私は短期留学でマレーシアを訪れた。そこでマレー語だけでなく英語を流暢に話す現地の人に、私はとても驚いた。どうして英語を話すことができるのか、英語のルーツはどこであるのか、そしてどのようにして英語を学んでいるのか、という疑問が浮かび、それは長年解決することはなかった。そこでこの卒業論文では、マレーシアと英語の関係性を論じ、また国内で行われていたPengajaran dan Pembelajaran Sains dan Matematik Dalam Bahasa Inggeris (PPSMI)という教育政策に焦点を当て、その有効性や国民の意見を分析し、マレーシアの英語教育の特徴について考察する。

Chapter I Why do Malaysians speak English?

 Chapter 1では、マレーシアと英語の関係を歴史的な観点から分析していく。マレーシアの歴史は主に@植民地時代A第二次世界大戦後B1968年の暴動後C現在までの4つに分類することができる。イギリスの植民地時代に英語が伝わったとされ、国内にはそれぞれ英語、マレー語、中国語、タミル語を教授言語とする学校が建設された。第二次世界大戦後に、英語を優先とする政策が多くなり、英語重視の方向に進んだが、1968年に起こった民族暴動により、言語による民族間の格差が浮き彫りになった。そこで英語優遇政策の緩和を行ったが、グローバル化などで英語の需要は高まる一方で、予想とは逆の展開になってしまう。そこでマレーシアは、国内統一のための言語として、また国際語としての言語として英語の位置づけを見直したのである。これは多民族、多文化社会のマレーシアに適した取り組みといえる。

Chapter II Did PPSMI succeed in improving student's ability?

 Chapter 2では、2002年に当時の教育大臣が発表した数学と理科を英語で教えるという政策(PPSMI)について、アンケートをもとに国民の意見や考えを分析し、その有効性について考える。主な質問としては、PPSMIはわかりやすかったか、楽しく学ぶことができたか、PPSMIによって数学、英語、理科の能力は向上したかなどである。どの質問にも肯定的な回答が多く、国民はPPSMIによって能力が向上したと考えていた。これには2つの要因があると考えられる。1つ目は英語を話す頻度である。調査の結果から、マレーシア人は学校以外にも様々な場所で英語を使う機会が多いとわかった。このことから、既に基礎的な英語能力が身についており、容易にPPSMIに対応できたと考えられる。2つ目は国民が国際語としての英語の必要性を認識していることである。回答者の意見の中には、international languageとしての英語の必要を強く指摘するものが多かった。このことから、マレーシア人はPPSMIを強く支持していたと考えられる。

Chapter III The problems and the future of PPSMI

 Chapter 3では、なぜPPSMIが終了したのかについて考察する。Chapter 2より、国民から強い支持があったにも関わらずどうして終わってしまったのか、これには@PISA, TIMSSの結果ALEP learnersB先生の負担の3つの原因が考えられる。PPSMIの政策にも関わらず、PISA, TIMSSの成績は上がらなかった。これは政府も言及している理由の一つである。またLEP (Low English Proficiency)という英語能力の低い学生とそうでない学生との学力格差も問題も深刻であり、さらに差が開くことを懸念する専門家も多い。そして先生の負担も多く、特に数学と理科の先生は英語の知識もつける必要がある。一方でPPSMIをもう一度実施してほしいという国民は少なくはなく、Gooch (2009)によると、58%のマレーシア人はPPSMIを続けるべきだと回答している。2020年1月に、政府はもう一度PPSMIを実施する政策を発表した。アンケートより、この発表について国民は、@子供たちのためA国際語としての英語B今後の教育へのメリットの観点から賛成の意見が多かった。しかし、学力格差の点から中立の考えを示す人もいた。しかし、国民は再導入されるPPSMIに何かしら期待を抱いていることは確かであると考えられる。

Conclusion

 PPSMIは専門知識だけでなく英語能力も高めることのできる効率的な学習方法であることがわかった。マレーシアにおいてPPSMIは、国民の能力育成のために大きな役割を果たしたことは明白である。しかしこの政策は、他の国でも成功するとは限らない。植民地時代から英語を日常的に話す環境が整っていること、国民が英語に対し高い意識を持っているマレーシアであるからこそ高い評価を得た政策である。マレーシアの教育制度は転換期にあり、今後のマレーシアの英語教育の調査は、他の国々にも大きく影響すると考えられる。