The Use of Picture Books for Young Learners of English
(英語学習児童に向けた絵本の活用)

69期 AI 類 A. K.

Introduction

 この論文は、小学校における外国語や外国語活動での絵本の活用方法を研究することを目的としている。2017年に新学習指導要領が発表され、それ以降日本の小学校で3年生から英語学習が始まっている。早期英語教育が謳われる中、英語学習に苦手意識を感じる児童や生徒の数が増加する可能性が考えられる。小学校での英語学習の目標は英語に慣れ親しむことであり、英語に関する確実な知識習得までは目標とされていない。その結果、小学校で学んだことを忘れてしまい、中学校で活かすことが出来ないということが起こる。この課題を解決するために、言葉をある状況と共に提供する絵本は子供達がその絵本から学んだ知識を記憶に残しやすくし、小学校で学んだ知識を中学校で活用することが出来るのではないかと考え、絵本の特徴と英語学習における利点を分析し、実際の活用方法を提案していく。

Chapter 1 Characteristics of English Picture Books

 第1章では、絵本とは何かということについて分析していく。絵本は絵と文字から成り立っており、1つの世界を作り出している。絵本の絵の特徴は、全体の雰囲気を瞬時に示し、そこで何が行われているのかということをすぐに理解させるということである。また、絵のもう1つの特徴は、動的な性質を持っているということである。絵本の中にある絵は、一見全く動いていないように見えるが、人間の脳内に入り込むと、絵は動き出し、動的な絵本の世界として読み手に提供される。
 次に言葉の特徴としては、分節的ということであり、ある出来事を「動作主」や「何をしたのか」といったように1つ1つ分けて説明していく。また、もう1つの特徴として、言葉は絵本の世界における時間を動かす。言葉は登場人物に動作を与え、その動作を行う為には、ある程度の時間が必要である。ここで絵本の世界における時間が動き、絵との共存により、空間と時間が動き出す動的な絵本の世界が表現される。このような絵と文字が融合された絵本は読み手にとってなじみのない世界を作り出し、子供達の好奇心に訴えていく。

Chapter 2 Advantages of Picture Books for English Learning

 第2章では、英語を学習するにあたって絵本はどのような利点があるのかについて、4つの観点に焦点を当てて分析していく。1つ目は、子供の学習の動機づけを高めることである。絵本ならではの絵と文字の特徴に魅了されることや、絵本の中にある同じ言葉の繰り返しによって、興味を持って英語を学習することにつながる。
 2つ目は、英語学習に必要なインプットを増やすことである。絵本の中には子どもが理解しがたい言葉も存在するが、絵があることによって理解しがたい言葉が理解可能なインプットとなる。インプット仮説に基づき、理解可能なインプットを多く提供する絵本は、英語学習に必要なインプット量を増加させると結論付けている。
 3つ目は、英語のオーセンティックな活用を提供することである。松浦・伊東(2012)は、言語習得を促すインプットの条件として "authenticity"(真正性)を挙げており、絵本の中にある自然な言語使用による適切な表現のモデルを子供に提示することは、言語習得を促進するオーセンティックなインプットを与えることとなる。
 4つ目は、スキーマ構築の促進である。スキーマとは清水(1994)によると「過去の反応・経験を活動的に組織化したもの」であり、子供が絵本の中で使われている言葉を絵や状況と共に学ぶことで、脳内にスキーマを構築していく。このように英語学習において絵本を活用することは様々な利点がある。

Chapter 3 An Effective Way to Use Picture Books in English Teaching

 第3章では、まずこれまで行われてきた実践方法を研究し、その後、絵本の活用方法を提案する。これまで行われてきた実践方法として、3つ取り上げている。1つ目はボトムアップアプローチとトップダウンアプローチを組み合わせたバランスト・アプローチであり、この方法は理解が難しい言葉等を予め確認しておくことで、子供の理解の妨げとなるものを避け、かつ言語習得をも考慮に入れた活用方法である。2つ目は、読み聞かせの際にインタラクション(相互作用)を取り入れることであり、このインタラクションによって子供に知識を修正、再構築させることが可能となる。3つ目は、絵本を使う活動を@読み聞かせ前の活動A読み聞かせ中の活動B読み聞かせ後の活動の3つに分けて考えることであり、読み聞かせだけではなく、その前後の活動を充実させることで、絵本に使われている言葉をより深く学習することにつながるのである。
 このような実践を参考に3つの作品の活用方法を提案する。1つ目はEric Carle作のThe Very Hungry Caterpillarである。この絵本は何よりも絵の鮮やかさに魅了され、青虫の世界という子供達にとってあまりなじみのない世界を展開していることが特徴である。この絵本の活用方法としては、「どちらが "ate through" ゲーム」を提案している。片方が "ate" 、もう片方が "ate through" を表す2枚の絵を用意し、どちらが "ate through" か当てていくという活動を通して理解しづらい "through" のイメージを子供に与え、この言葉を理解可能なインプットとして提供する。2つ目は Maurice Sendak作の Where the Wild Things Areである。この話は、主人公マックスの夢の世界への冒険の旅が描かれており、どこか親しみを感じるような恐ろしさを持つ絵と言葉が特徴的な絵本である。この絵本の活用の仕方として、ジェスチャーゲームを取り入れている。この絵本は "roar" や "gnash" といった怪獣の動作を示す言葉が使われていることが特徴的であり、これらの言葉を使ってジェスチャーゲームをすることで、言葉の音・意味・イメージを同時に理解させていく。3つ目はShel Silverstein作のThe Giving Treeである。この話は木と少年の物語であるが、自分の欲しいものを求め続ける少年とその期待に応えようとする木が対照的に描かれ、無償の愛というテーマを映し出している。この絵本の活用方法として、物語後半に登場する "She was happy but not really." の表す意味を考える活動を提案している。木が本当には嬉しくなかった理由を考えることによって、人間の愚かさ、命のはかなさというこの絵本が表現するメッセージを伝えていく。

Conclusion

 結論として、絵本は独自の世界を持っており、それが子供を魅了するものとなっていく。また、子供の学習の動機づけや、インプットを増やすこと、オーセンティックな言語使用を提供することや、スキーマ構築を促進するといった効果もある。しかし、学校現場に英語絵本の数が十分でないことや、絵本を活用する時間が取れないことが問題として挙げられる。これらの課題解決のために、学校現場において英語絵本を導入しながら、限られた時間の中で、絵本を活用するための効果的な方法について今後も研究していきたい。