Teaching English Using Information and Communication Technology (ICT)
(情報通信技術を活用した英語教育)

65期 AII 類 N. S.

Introduction

 2020年度から新学習指導要領が実施され、小学3・4年生では外国語活動が、小学5・6年生では英語の教科化が完全実施となる。さらに、小学校では専門教科が英語でない学級担任が英語を教えることが多いため、小学校の英語教育義務化に伴い英語を教える教員の育成が大きな課題となっている。生きた英語に触れさせることを目的にALT(外国語指導助手)を採用するケースが増えているが、ALT1人あたり年間約500万円の費用が発生することから、財政的にALTの受け入れが困難な学校も少なくない。そこで、約120万円の費用で導入することができる人型ロボットNAOは将来ALTに替わる存在となるのかを明らかにする。また、小学校の英語教育にロボットを導入することによる教師と児童への影響や今後の普及においての課題などを、NAOを活用した外国語活動を行っている大牟田市立明治小学校へうかがって明らかにし、今後の普及につながる提案をすることを目的とする。

Chapter I Case Studies of Robots in Teaching English

 第1章では、Musioというロボットについて取り上げる。この論文ではALTと人型ロボットNAOの比較を行うが、小学校の英語教育で使われ始めているロボットはNAOだけではない。Musioは児童が自分で操作をすることができ、その分教師の負担も減る。また、Musioを導入することによって、児童ひとりひとりが英語を話す時間を作れるという良いところもある。

Chapter II Assistant Language Teachers (ALTs) and a Humanoid Robot Called NAO

 第2章では、ALTあるいは彼らに替わる存在が必要とされている理由とALTと人型ロボットNAOの違いについて示す。「(参考資料)小学校外国語活動実施状況調査 結果(平成26年度)」によると、外国語活動に対する意識に関して、学級担任等(外国語活動を担当する教員調査)3,203人のうち60.8%が「準備などに負担感がある」、67.3%が「英語が苦手である」、34.6%が「自信を持って指導している」と回答している。このように小学校の英語を担当する教師の多くが不安をかかえていることから考えるとALTがチームティーチングにより教師にアドバイスできるメリットは大きい。また、児童にとってALTは外国人と話せたという自信につながる良い点がある。一方、NAOにも児童にとってよい点がある。児童はロボットが相手だと間違えることに対する不安な気持ちから解放されて、積極的に話しかけることができる。さらに、小学校での外国語活動で初めて英語を学ぶ児童が多い中、初めて英語に触れる環境にロボットがいることで、児童の英語を学ぶ動機付けになることや児童の英語への関心を高めることができる。

   robots.jpg(17158 byte)
   [身長は58センチあるよ。歌を歌うことも踊ることもできるよ。]

Chapter III What I Learned from the Class that I Observed and from the Class Teacher

 第3章では、見学させていただいた人型ロボットNAOを活用した3年生の外国語活動やその授業を担当されている先生からお聞きしたことから学んだことを書く。授業中のNAOの操作については、教師がタブレットの中にあるNAOに話させたいボタンを押して一人二役しなければならない。NAOにはAIの機能もあるが、どの程度のAI機能かわからず、調子をすぐに崩すデリケートな部分があり、全部手動で動かしている。NAOの操作は、タブレットのどこに何が入っているのかを覚えれば簡単に行える。しかし、NAOをどの場面でどのような使い方をするかを考えなければならないので、授業準備の時間は増えた。NAOは主に会話やデモンストレーションや発音を行う。NAOを活用した授業をする中で発見したNAOを使用することについての課題はインプットされていない言葉を入れたいときがあることと起動に時間がかかることである。
 NAOを導入後、授業をする中で想像と違う点は児童が飽きるのではないかと思っていたが、とても愛着がわいているようであることだ。NAOは学校に一台あり、児童はNAOと授業のときだけ会うことができる。NAOに出会ってから約5か月が経ち、児童が成長していく中で、ロボットに接する様子ではなく、NAOをかわいがり友達になっていっている。さらに児童はNAOが話すと耳を傾ける点で児童の英語に対する興味関心の向上が見られる。 NAOの機能について、原曲の声のままではなくNAOの声で歌っている歌があるといい。1回の授業でNAOがクラス全体に話しかける時間は10分以下で、多いときでも10分から20分である。児童が話した英語に間違いがあってもNAOは反応しない。NAOは異国の文化を児童に紹介したり、教えたりすることはめったにしない。今後、異国の文化を紹介する機能をNAOに付けたほうがいいと思う。
 ALTとNAOについて、ALTとは1学期に1回、NAOとは月3回授業を行う。授業中にALTは半分、NAOは4分の1の時間を教師とかかわる。授業中にALTは4分の3、NAOは4分の1の時間を児童とかかわる。児童が英語を話す量や聞く量はALTと一緒にする授業では多く、NAOを活用した授業では少ない。NAOを活用した授業では全て教師が行うが、ALTと一緒にする授業では教師はALTに助けてもらえる。教室を回りながら児童への声掛けや教師とのやりとりなど45分間ALTの存在が途切れることがない。さらに、ALTには表情があり、児童はALTが話す英語がわからなくても推測しながら聞くことができる。
 以上のお話を外国語活動を担当されている担任の先生からお聞きした。最初の段階からNAOにフレーズがたくさんインプットされているか、教師がタブレットに簡単にフレーズを追加することができる機能がある、あるいはAIの機能が充実して、NAOが自立してコミュニケーションがとれるとよいと感じた。また、授業見学の中で、デモンストレーションを教師とNAOが行う場面で、カードをNAOに渡したときにNAOが受け取ることができなかったので、薄い紙を手で握れる機能や首を動かしたり体の向きを変えるなどの機能があるといいと思う。
 ALTの先生は、実際に人間同士のコミュニケーションは大事だと話した。運動会や昼食に児童と一緒に参加している。19の学校を回る中で得た、いいところを担任の先生に教え、協力して新しいアイデアを提案できる。また、授業では伝えようとすることが大事であり、完璧な英語は必要なく、間違っても伝わると話す。
 以上のお話をALTの先生からお聞きして、ALTの先生は完璧な英語は必要ないという考えを持っているので児童が言いたいことを読み取って会話ができる点や教師とチームティーチングが行える点で児童にとっても教師にとっても心強いことがうかがえた。一方、ロボットにもいい点がある。その中の1つは児童の興味を引き付ける点だ。授業後の児童にNAOを活用した授業についての感想を聞いた。「NAOがダンスをして感動した。」「楽しい。」「とても英語がうまい。」「発音がすごい。」「興味が持てた。」などの感想が寄せられた。そこで、もっともよいのが授業ではALTの先生にできるだけ来てもらい、教室に休み時間自由にロボットと英語で会話できる環境を作ることではないかと思う。財政的にALTにたくさん来てもらうことが厳しい地域では、ALTの先生がいないときや休み時間にロボットを活用する。このように両者に学校にきてもらうことで、今までよりもより児童が英語に触れ、かつ英語に親しみを覚えるのではないかと思う。

Conclusion

 最初はALTよりもロボットの方がいいのではないかという考えをもち論文を書き進めていた。しかし、明治小学校にうかがい、現場の先生だからこそ感じられているお話をお聞きすることができて、想像していた特徴がほとんど覆された。今の段階では人型ロボットNAOにできることは限られているということとロボットを使用することで、実際は教師の負担が増えてしまう面もあるという発見があった。今回のインタビューを通じて、ALTとNAOには両方良いところがあることがわかったが、今の段階ではALTの方が教師にとっても児童にとってもよいと感じた。しかし、NAOの場合、授業に参加できる回数が多いということやALTのように財政的な地域格差が生まれにくいということ、児童の興味を引くことから、ALTがいないときにNAOを使うことが有効だと考える。この論文を目にした方が導入を検討するきっかけになり、将来ロボットが広く英語教育に導入され、児童が地域格差なく英語教育を受けられる日がくることを願う。