Utilizing Literary Texts in English Classes at Junior High School
(中学校の英語の授業における文学教材の活用について)

64期 AII 類 Y. T.

Introduction

 グローバル化が進む近年、中学校の英語教育の段階から、生徒のコミュニケーション能力の育成により力を入れるべきだという声が多く聞かれる。そのため、授業では実用性の高いコミュニケーション活動ばかりに焦点を当ててしまいがちである。しかしながら、学習指導要領が示すように、読む力、書く力、聞く力、話す力の4技能の基礎を養うことが、本格的に英語を学び始める中学生にとって重要である。では、授業ではどのような教材を扱うことが適切だろうか。この論文では、教材としての文学テキストの可能性を追求し、実際にどのような教材を選び、指導するのかということを考えていく。

Chapter I The Present Situation in English Teaching at Junior High School

 この章では、中学校英語教育における現状を、主に学習指導要領と現行の教科書の観点から述べている。学習指導要領の変遷に着目する中で、practicalという言葉の解釈の仕方を指摘しているが、ここではdirectly practical(日常生活に結びつきやすい)とindirectly practical(日常生活には直接的には結びつかない)の2つの意味で定義している。前者の意味での解釈が学習指導要領や現行の教科書の中に掲載されているために、教師は狭義の実用主義に陥りやすいことが明らかになった。そのため、文学教材が扱われる機会は少なく、補助的な読み物教材として位置づけされている。

Chapter II Advantages and Disadvantages of Using Literary Texts

 この章では、文学テキストを教材として扱うことの利点と欠点を述べている。1章で述べたように、現在のコミュニケーション能力育成を重視した授業では文学教材は扱いづらく、どのようなテキストが教材として適切なのかの判断が難しいため、教師も扱うことを避けている印象を受ける。教材として扱う場合、教師自身もそのテキストについて精通していなければならず、またリトールド版を扱うのか、どの場面をどの程度扱うのかなど配慮すべきことが多く、教師の負担になりうることが明らかになった。しかしながら、一般的な規則から逸脱した文学固有の表現などにふれることで言語への気づきが深まることや、学習者の動機づけとしての働きとしては目を見張るものがある。また、テキストを読むことを通して、登場人物の視点から自分とは異なった生活や習慣、考えを体験できるのは文学教材特有の長所であることも明らかになった。

Chapter III Literary Texts as Teaching Materials

 この章では、2章で挙げた欠点の中でも特に問題視されるであろう文学教材の選定基準を定め、実際に文学教材をどのように授業で扱うかについて述べている。選定基準は難易度、長さ、内容の適切さとし、この基準を満たすと思われる作品をいくつか紹介している。また、実際にどのように文学教材を活用するのかを授業案とともに示している。ここではShel Silversteinの"The Giving Tree"という作品を扱っている。この作品は、多少難しい表現はあるものの挿絵などが入っており親しみやすく、中学生でも読みきれる難易度長さである。また、物語自体も生徒に考えさせる内容であり、グループや全体で話し合う活動を多く設けることで、テキストにより深く入り込ませることが期待できる。文学テキストにおいては、読者は作者と文字を介して自由に対話をするが、そのおもしさに気づかせることがこの授業における教師の最大の役割ではないかと考える。

Conclusion

 グローバル化に伴い、英語教育においてはコミュニケーションツールとしての英語が求められている。そのため、文学教材は授業でもあまり取り上げられることはない。しかしながら、英語学習者にとっては言語そのものとしての英語を学ぶことも重要である。文学教材には扱う表現がすぐ会話に使えるというような即効性はないが、深く考えることや、頭の中で具体的にイメージを浮かべること、的確に物事を描写することを助ける機能がある。教師はそういった文学教材の特性を知り、有効的な活用方法を見つめなおす必要があるのではないだろうか。