How to Teach English in English in Senior High Schools
(高等学校において英語で英語を指導するために)

62期 AII 類 K. H.

Introduction

 2013年度から施行された高校用学習指導要領に以下の文言が加えられた。「英語に関する各科目については、その特質にかんがみ、生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。」これにより、高校英語教師は英語で授業を行うことが求められるようになった。しかしながら、文法訳読式の授業を中心として日本語で指導してきた教師が英語で授業を行うことは一朝一夕でなせる業ではない。では、英語で授業を行う上で注意するべきことは何であるか。5週間のシアトル語学研修、8か月のサンフランシスコでの留学を通して、英語による英語指導を肌で体感した経験をもとにこの課題を追究する。

Chapter I The Background and Present Situation of Teaching English in English

 学習指導要領の改訂に伴い、教育現場とそれを取り巻く環境がどのように変化したのかを改訂の背景を踏まえて検証する。指導要領の改訂としては、他国に比べ、英語運用能力が低いことが影響し、教科名に「コミュニケ―ション」を意識した教科名が採用され、語彙数も大幅に増加した。また、教科書も大幅に変更が促され、ページ数が増加しただけでなく、各レッスン間の活動の割合が劇的に増加したことが判明した。しかしながら、現場の教師の約70%が英語での教科指導に不安を抱えており、その多くが生徒の理解に不安を抱えているというものであった。また、現場での英語使用は50%を下回る教師が60%を超えており、生徒の英語使用率も約50%にとどまった。全体の傾向として、教師、生徒ともに英語での指導、学習に少なからず抵抗感を抱いており、学習指導要領と現場での指導の間に大きな乖離があることが示された。

Chapter II The Significance of Teaching English in English

 第二章では、主に英語による英語指導がどのような影響を与えるのかを長所と短所を比較しながら論じた。長所としては Authenticity (本物の英語使用の場面を作ること)、Exposure (英語に触れる機会を増加させること)、Motivation (生徒のやる気を喚起すること)、Participation (授業に積極的な参加を促す場面をつくること)、Communication (生徒と教師との双方向性をつくること)、Securing Time to Think (考える場面や時間をつくること) の6点を挙げた。生徒参加型の授業になることで、Teacher-centered から Learner-centered の授業になる傾向が強く、その長所が明確に結果として現れた。一方、英語による指導による欠点として、Difficulty in Teaching Many Things in Limited Time (効率的な指導に対する困難) Difficulty in Teaching Grammar (文法指導に対する困難) Difficulty in Teaching All Things Teachers Want to Teach (教えたいことをすべて教えることへの困難) の3点が挙げられた。文法など定義を教えなければならない場面では英語による指導が困難になる傾向が強いこと、生徒の処理を待つために多くの時間を要することが欠点になることが分かった。

Chapter III Specific Methods to Teach English in English in Senior High School

 第三章では、第一章、第二章の内容を受け、英語による指導をより効率的におこなうポイントを紹介した。教師のジェスチャーの有効性、Teaching Materials(Dictionary, Realia, Picture, ICT, Handout)の利用、Code-Switching(適切な場面で日本語と英語を切り替えること)の必要性を論じた。英語による指導では、従来のように言語による指導ばかりでは生徒の理解が伴わない。したがって、理解しにくい部分を教師があらかじめ理解し、言語以外の方法を用いて説明することによって、生徒の理解が深まるだけではなく、説明時間を短縮できるため大いに活用する必要があることが判明した。また、定義を説明するだけでは理解が伴わない文法指導については、生徒とのコミュニケーションの中でその文法を必要とする場面を設定し、生徒に法則を理解させること、生徒に何度も発言させることなどの工夫をすることによって指導することが肝要であることがわかった。

Conclusion

 学習指導要領は「実際に使える」英語運用能力を求めている。この目標を達成するためには、教師と生徒が「曖昧さに慣れる」ことが必要であると考える。日本語での指導のように直接的に知識を伝えることが難しい現状において、教師が定義を教えて生徒の理解が伴っていると確信することはできない。したがって、教師が生徒の感覚的な理解を育む必要がある。一方で、生徒も不慣れな英語での学習によって確信した知識が得られない分、英語を使用する中で育まれる知識を感覚的に理解しなければならない。英語で授業を行う上で不可避なこの「曖昧な指導」にまず教師と生徒が慣れる必要があるのだと考える。まず教師と生徒が従来の英語教育と求められているものが異なることを理解し、「曖昧さに慣れる」指導を目指すことで今後の英語による英語指導の発展がみられるのではないだろうか。