How to Improve Speaking Abilities of Japanese EFL University Students
(日本人大学生の英語スピーキング能力向上のために)

62期 AII 類 A. N.

Introduction

 日本人の英語力不足、特にスピーキング能力の不足を痛感したのは、ある国際シンポジウムに参加した際のことである。ほぼすべての参加者が英語を母語としないにもかかわらず、日本人以外の参加学生は流暢に英語を話し、他者の英語を即座に理解し、そして積極的に英語での議論を展開させていた。一方、日本人学生はというと、私自身を含め、他国の学生のように英語を使いこなすことができず、自分の意見を十分に発信することができなかった。英語を外国語として学ぶ者同士でありながら、なぜこのような差が生じるのだろうか。この問いに対する答えを明らかにするとともに、それをもとに日本人学生の英語スピーキング能力の向上をはかるためのより効果的な方法を見いだす。

Chapter I English Speaking Ability

 私たちは一般的にListening・Reading・Speaking・Writingという4つの側面から英語を学習している。しかし、外国語習得には、音声・単語・文法の能力を示す「文法能力」、1文以上をつなげる能力である「談話能力」、社会的に適切な言語を使う能力である「社会言語学的能力」、そして、問題が起こった時に対応する能力である「方略的能力」を身につけることが必要である(白井 2012)。現在行われている日々の英語学習の中で、これらの能力は獲得可能なのだろうか。
 英語というのは、コミュニケーションの一手段である。誰かとコミュニケーションをとる際、私たちはどのように相手に意志を伝え、また相手の意図を理解するのだろう。日常に目を向けてみると、それは多くの部分が「話し言葉」「音声としての言語」ではないだろうか。顔と顔を合わせて会話をすることや電話での会話、そしてテレビを見て内容を理解することもその一例と言える。このことから、言語取得で目指すべき目標というのは、話し言葉としての言語の習得が大きな目的であるべきだと考える。また、言語習得には、第一に大量の「理解可能なインプット」が必要であり、加えて「適度なアウトプット」が伴う必要がある(白井 2012)。この考えを念頭に置きながら、第二章以降に移る。

Chapter II The Actual Situation of English Speaking Classes in Japan

 日本人の英語力を示す指標の一つとして挙げられるのがTOEFL iBTである。Listening・Reading・Writing・Speakingの4技能の到達レベルを計るこのテストにおいて、日本は2010年、合計点数がアジア30か国中27位、さらにSpeakingに関しては30か国中30位で最下位と位置づけられた。このような現状を踏まえて日本の英語教育に目を向けると、日頃どのような方法で英語が教授されているかという点に問題があるように思われる。未だ多くの英語教師が文法訳読方式によって英語授業を行っているのが現状であり、生徒にとって十分なインプット・アウトプットの機会が確保されているとは言い難い。しかし、日本の入学試験というのは和訳を問う問題が多く、旧帝国大学と呼ばれる7大学の英語入試問題を見てみると、7大学中5大学が50%以上もの問いを和訳問題として出題しており、最高学府である大学への進学を可能にするには、高等学校はじめ下位に属する教育機関は児童生徒に和訳問題を解答できる英語力を養成することが求められてしまうのが現状である。

Chapter III Comparison between English Education in Japan and in South Korea

 日本と同じように英語を外国語として学ぶ他の国々では、どのような英語教育が行われているのだろうか。本論文では、対象国を韓国として日本と韓国の英語教育について比較を行う。韓国語は日本語と言語距離が非常に近く、英語を学ぶにあたり、日本語母語話者と韓国語母語話者の英語習得難易度は同程度と考えられる。しかしながら、上で述べたTOEFL iBTに基づく順位結果では、韓国は30か国中10位と日本よりはるかに上位に位置している。
 両者の英語教育に関して顕著な違いが見られたのは、教育の開始学年とそれに伴う授業数、そして教科書内容である。韓国では小学校3年生より正規教科として英語学習が開始され、日本よりも2年早い。したがって授業数にも差が生じ、小・中学校を通した英語授業合計数は韓国の方が約50時限も多くなっている。教科書内容については両国でそれぞれ中学校3年生の英語授業に使用されている教科書を用い、両者のLesson 1の語彙数を比較したところ、日本の教科書は計375単語であるのに対し、韓国は計2130単語と約5倍もの差があることが分かった。このことから、韓国の学生は日本の学生に比べて、授業において出会う単語数や英語表現数がはるかに多く、インプットの面で優位であることが言える。さらに、教科書に掲載されている問いや指示文の形式にも違いがあり、自分の考えなど自由記述形式の問いが多く、アウトプットについても韓国の方が優位であることが分かった。

Chapter IV Survey Results and Consideration

 以上の状況を理解した上で、自分自身で英語力を効果的に向上させるためにはどのような方法を用いるべきか、日本と韓国における大学生の英語学習方法の違いについてアンケート調査を行った。
 興味深い結果の一つとして、Do you feel any difficulties when you are talking in English with others?(他者と英語で意思疎通をするにあたり、何か問題を感じたことはありますか)という問いに対して、韓国人学生はYes 69%、No 31%であるのに対し、日本人学生はYes 83%、No 5%、I don't know 12%という結果を示した。これは、調査を行ったすべての韓国人学生は多かれ少なかれ他者と英語で意思疎通をはかった経験があるということを示し、一方で日本人大学生は12%もの学生が他者と英語で意思疎通を行う経験を一度も持ったことがないことを示している。また、学習法については、日本人はアウトプットとインプットの偏りが著しく、Writing能力を向上させるためには「英語で文章を書く」、またReading能力を伸ばすためには「英語で書かれた本を読む」という方法を最も用いていることが分かった。一方で、韓国の学生は4技能すべてにおいてインプット・アウトプットをバランスよく取り入れて学習しており、特にすべての質問項目において「英語で映画やドラマを見る」という選択肢が日本人学生よりも高い数値を示していることが大きな違いとして現れた。