A Study of Digitalization of English Textbooks in Junior High School
(中学校英語教科書デジタル化の研究)

62期 AII 類 M. S.

Chapter I 

 デジタル教科書は、教科書の内容を電子黒板やタブレット端末に表示し、デジタルコンテンツを用いて学習できるものである。アニメーションや映像を見ることができる他、写真を拡大したり、音声を再生したりすることができる。
 日本では、デジタル教科書の中学校への導入は、2009年末に当時総務相だった原口氏が「全ての小中学生にデジタル教科書を」と提言したことから始まる。各教科の教科書の内容が含まれる一人一台のタブレット端末を、2015年までに配布することが目標だ。現在、全国の実証実験校において、教育現場での情報技術の課題の研究、教育面(指導方法)の研究が進められている。
 隣国の韓国では、デジタル教科書の整備が2002年から始まり、インターネットを利用した学習と共に小中学生の手に広がってきた。2015年には、配布を終え、さらなる研究開発に取り組む予定だ。
 韓国がより早くデジタル教科書の配布を実現させようとしている理由は、ネットワークの構築、インフラの整備等ハード面に加え、教員の技術力向上、施設機材の整備等のソフト面の向上に関して1990年代から取り組んでいたことが挙げられる。
 現在、総務省と文部科学省が協同してこれらの整備を進めている。今後韓国やその他の国々の取り組みも参考に、デジタル教科書のもつ課題を研究し続けていく必要があるだろう。

Chapter II 

 デジタル教科書は、中学校の英語教育においてどんな役割を果たすことができるのだろうか。中学校の英語科でデジタル教科書を使うメリットとして、三点が挙げられる。
 一点目は生徒の興味関心を高めることができる点である。生徒がICT機器を用いた学習に興味を示すことが、先行の研究により分かっている。また、家庭でもコンピュータに触れる機会がある生徒が多い。「教科書」という身近なものがデジタル化されることは、生徒の英語の授業に対する意欲の向上を期待できる。
 二点目は異文化理解において映像や写真が提示しやすい点である。東京書籍のデジタル教科書New Horizonには、教科書の各章の題材についての動画が収録され、ナレーション付きで見ることができる。各章の題材は外国の文化、日本の文化に触れられているため、映像を見ることで、文化に対しての理解を深めることに役立つ。また、各章に収録されている写真は、拡大や縮小ができ、生徒が自由に見ることができる。ネットワーク環境があれば、教員が用意した写真を生徒が自分のタブレット端末に保存することも可能である。映像や写真を提示することで、教授の仕方が広がる上、文化をより適切に理解させることができるだろう。
 三点目は生徒の実態に合わせた指導ができる点である。タッチパネルのタブレット端末であれば、教科書本文の音声を画面にタッチするだけで再生できる。さらに音声の速度を変えることもでき、リスニングの練習に役立つだろう。また、英単語のフラッシュカードは英語→日本語、日本語→英語と設定を変えることができ、生徒が家庭で学習するのに効果的であると言える。生徒の到達度や進度に合わせた適切な指導を期待できる。
 このように、デジタル教科書を英語科の授業で用いることで、教員は授業を様々に工夫することができる。しかし、デジタル教科書を全生徒が手にすることになっても、教員がそれを活用した授業を工夫できなければならない。学習指導要領の改訂により、生徒のコミュニケーション能力を養うために英語科の授業数も増加した。デジタル教科書の利点を知った上で、生徒の理解や興味関心に合わせて、授業内容を工夫できるよう、教員が研修等を経てデジタル教科書を活用できる機会をつくる必要がある。

Chapter III 

 デジタル教科書は具体的に中学校英語科の授業のどの場面で用いることができるのだろうか。この章では本文の学習を想定し、デジタル教科書のみを使った授業と、デジタル教科書と紙の教科書、他のICT機器を使った授業とを比較し、デジタル教科書を使った授業を提案する。
 デジタル教科書のみを使った授業では、導入で生徒に題材について興味を持たせることを狙いとし、デジタル教科書に含まれている映像を用いたり、(東京書籍New Horizonを用いるとする。)展開ではデジタルコンテンツのうち、本文を画面に表示し、音声再生可能なページを用いたりできる。またコンテンツ内の解説のページを開いて、本文の内容理解を図ることや、音読の練習を各自のタブレット端末を使って、それぞれ生徒のレベルに合わせて音読練習させること、さらに、コミュニケーション活動では、デジタル教科書内にある"exercise"のページを用いることができる。
 デジタル教科書のみを用いた場合、他の教材を机上に準備させる必要がないため、教科書に集中することができる。また、教員の教材準備の時間を減らすこともできる。しかし、必ずしもデジタル教科書の題材が生徒の興味関心、学習到達度に必ずしも合っているとは限らない。これまでの英語科の授業で行われてきた教授法の中に、上に述べたようなデジタル教科書の活用の仕方を組み合わせることで、より生徒の進度に寄り添った指導ができ、コミュニケーション能力の素地を養う適切な指導ができるのではないだろうか。
 ICT機器にはデジタル教科書の他にも、電子黒板やプロジェクター、OHP(書画カメラ)、OHC(実物投影機)など様々なものがある。それぞれの利点を生かし、生徒のコミュニケーション能力を養う英語の授業が求められる。