How to Use Total Physical Response for English Education in Elementary Schools
(小学校英語教育における全身反応教授法の活用法)

61期 AII 類 R. O.

Introduction

 2011年度より、小学校において5, 6年生を対象として外国語活動が本格的に始まった。それに伴い生じる大きな課題のひとつとして、英語専科でない小学校教員の不安が挙げられる。実際に教育現場からは、どのように外国語活動の授業を進めたらよいのか分からない、自身の英語力で子どもたちに正しく英語を教えることができるのかどうか心配である、といった懸念の声も上がっている。そのような不安を軽減するために、私は小学校外国語活動において全身反応教授法(Total Physical Response)を導入することを勧めたい。効果的な言語教授法として1960年代にJames Asher によって提唱され、以来世界中で活用されてきたこの全身反応教授法をいかにして小学校での外国語活動に導入していくか、ということに本研究は焦点を当てている。
 また、近年大きく取り上げられつつある発達障害、その中でも学習障害を持つ子どもに対してどのように外国語活動を行うべきか、その場合なぜ全身反応教授法が有効であるのか、といったことについても研究、考察を行った。

Chapter I What is Total Physical Response (TPR)?

 全身反応教授法(以下、TPR)とはどのような言語教授法であるのか。TPRは1960年代にアメリカの心理学者James Asher によって提唱されたもので、学習者が指導者の指示を聞いて、言語ではなく動作で反応するという教授法である。リスニングによる理解を重視し、発話は強制されないのが特徴であり、その背景にはスピーキングの前提にあるものは理解することである、という概念が存在する。また、指導中は基本的に母国語を使用せず、指導者の発話を翻訳することも必要ではないということも特徴のひとつである。
 TPRの長所としては、学習者の年齢に左右されることなく有効であること、学習内容が長期化されやすく、ストレスを感じることなく楽しく学習できることなどが挙げられる。一方で、教師が授業の中心になりやすく、途中で子どもが退屈する可能性があることや、感情などの抽象的な表現が難しいことなどといったような短所も含んでいる。

Chapter II Some Examples of TPR Activities

 TPRを用いた活動にはどのようなものがあるのか。この章では、具体的にSimon says, Right or wrong, 英会話たいそうの3つの典型的な活動例を紹介する。指導者の発話を聞き分け、指示に合わせた動きをするSimon says, あるいはそれに手を叩くことによって反応するRight or wrong の2つの活動は、ともにゲーム感覚で楽しめる要素が多く、小学生でも飽きることなく積極的に活動に参加できることが期待される。また、英会話たいそうでは、音楽と体の動きに脳が刺激され、学習者は効率よくチャンクや会話パターンを覚えることができる。これらの活動は実際に教育現場でも多く取り入れられており、TPRの効果を存分に発揮することができる活動例であるといえる。

Chapter III Foreign Language Activities with TPR for Students with Learning Disabilities

 学習障害(Learning Disability 以下、LD)とは何か。LDとは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、または推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示すさまざまな状態を指し、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるものである。統計的に見ると、現在の日本において1学級を30〜40人と仮定した場合、そのうちに1人はLDを持つ子どもがいることになる。つまり、担任を持つ小学校教員にとって、LDを持つ子どもを指導及び支援することはもはや避けては通れないことを意味する。
 では、外国語活動においてどのようにLDを持つ子どもを支援すればよいのか。一般的に、LDを持つ子どもが抱える問題として、「言語」、「不器用さ」、「不注意」などが挙げられる。それを踏まえた上で、教師はゆっくりとやさしい口調で指示し、視覚刺激を抑えるために教材の色が強すぎないよう配慮し、さらに授業中に全体を見渡しながらLDを持つ子どもがつまずいていないかを把握し、適宜支援することが求められるのである。
 そして、なぜTPRがLDを持つ子どもにとって有効であるといえるのか。TPRは座学とは異なり、体験型の授業が展開しやすいため、LDを持つ子どもが普段授業に抵抗を感じていたとしても活動に参加しやすいこと、その参加により学習の達成感を味わい、学習意欲の向上へとつながること、また、細かい作業がほとんどないため、健常児との間に差が開きにくいこと、以上がその大きな理由である。さらに、TPRの活動において少人数グループでの活動を取り入れることによって、LDを持つ子どもを健常児が支援する体制を取りやすくし、その結果として良好な学級運営へとつながるという副次的効果も期待される。

Conclusion

 TPRは、本格化された小学校での外国語活動において有効な教授法であり、英語専科でない小学校教員の一助となることが期待される。また、健常児だけでなく、LDを持つ子どもにとってもメリットの多い教授法であり、学習意欲の向上や障害の軽減にも貢献し得るであろう。今後の小学校での外国語活動の発展において、TPRは大きな役割を果たす教授法である。