A Study of Reading Skills in High School
(高等学校における読解指導について)

60期 AII 類 M. M.

Introduction

この論文は、効果的な英文読解技術について調査し、それらをどのように高等学校の英文読解授業において指導するかについて論じたものである。
 これまで日本の教育現場では、英文読解の授業では精読が広く行われてきた。この指導法は、生徒の英語能力や一クラスの生徒数にあまり関係がないため、多くの教師にとって指導しやすい。しかしその一方で、生徒は受動的な態度になりやすく、英文を読むことに対しての興味も失いやすい傾向にある。そこで本論文では、生徒の知的好奇心を刺激し、生徒が主体的に英文を読むことで英文読解の力をつけられる指導法として、速読と多読を取り上げる。生徒はこれらの読解技術を学ぶことで、英文を読むことに楽しみを見出し、必要な情報を効率よく収集し、活用することができるようになる。

Chapter I 読解過程と教室での読解授業

この章では、読解とそれに伴う内容理解の過程について紹介し、また授業で英文読解を扱う理由と、生徒にとっての利点について論じる。
 読解の過程においては、人間が認識した視覚情報を必要な期間だけ保持する機能を持つ脳構造であるワーキングメモリ(working memory) と、長期記憶(long term memories)の一部であり個人がもつ語彙記憶(つづりや発音、意味、統語的情報)の総称である心内辞書(mental lexicon)、個人的経験に裏打ちされたスキーマ(schema)が鍵になる。例えば "No Admittance" という注意書きを読む場合、まずワーキングメモリが視覚情報を保存する。次に、視覚情報を音声情報に変換され、意味が心内辞書から検索される。このように、注意書きの読み手は視覚情報と音声情報から、その注意書きの意味を理解し、さらにその場所に入ってはいけないことを理解する。人間は常に読解対象に欠けている情報を自分で補って判断や理解を行うという考え方が読解スキーマ理論である。スキーマは階層的な構造をしており、buyという単語は買い手や売り手など様々な単語と関連している。また連続した行為を含むスキーマもあり、例えば "restaurant" は "entrance"、"order"、"taking meal"、"exit" などの単語を連想させる。
 高等学校のリーディングの目標は、文部科学省によって「英語を読んで,情報や書き手の意向などを理解する能力を更に伸ばすとともに,この能力を活用して積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる。」と設定されている。生徒は読み取った情報を適切に理解すると共に、タスク活動などを通して他の生徒と交流することが求められる。和田(2010)の実験によると、多くの生徒が共同学習に意欲的であり、そうでない生徒も次第に複数人で行う学習の利点に気付き、意欲的になっていく。教室は生徒の言語能力を高め、英文を読むことに望ましく意欲的な態度を育てることができ、さらに社会性を高めるために、非常に有効な環境である。

Chapter II 速読

この章では速読の目的と授業で教えるべき基本的な技術、教材、授業案、評価方法、さらに長岡(2005)の授業実践の問題点について扱う。
   天満(1989)によると、読解速度は読みの目的、興味の程度、文構造や内容の複雑さに関係している。すなわち、教材は生徒の言語レベルと興味にあわせて自分で選べるように工夫して知的好奇心を刺激すると、生徒の読解意欲も増し、読解速度もおのずと速くなる。授業で扱う基本的な読解技術としては、スキャニングとスキミング、事前読み、未知語に下線を引くことなどがあげられる。また読解速度を遅らせる原因としては音読や、無言で口を動かして読む lip reading、指や定規で文字を追うこと、再読、実際には口も動かさないが頭の中で文章を音読する subvocalization などが挙げられる。速読では速く読むことに加えて読解の正確さも要求される。松本(1980)によると、速読において生徒は批評的に英文を読んで内容を理解し、その文章の筆者の意図や偏見の有無を見抜き、それが理論立てて書かれているか検証し、そしてその筆者が最も伝えたい内容について話し合う必要がある。速読の評価においてはポートフォリオが有効である。生徒は自分の読解速度を記録し、読後に要約や自分の意見についてまとめることができる。長岡(2005)の授業実践では、67%の生徒が彼女の授業を通して文章を意味のまとまりで認識し、以前よりも速く読めるようになった。しかし、彼女は市販の速読教材を用いたため、生徒は自分で文章を選ぶことができなかった。また、生徒は読後の振り返り活動としては読解速度の記録しかせず、他の生徒と交流することはなかったことも問題点である。

Chapter III 多読

この章では、多読の目的と教材、授業案、評価方法、さらに大下(2007?)の授業実践のポイントについて扱う。
 野呂(2001)によると、多読において生徒は主に授業外で辞書を用いずに好きな本を自分のペースで黙読し、読みかけた本に興味を持てなかった場合は読むのをやめることができる。教材は生徒の言語能力(文法や語彙)の程度に合ったもので、彼らの興味分野をできるだけカバーできる種類と量の本を用意する必要がある。また読書は読むこと自体に意味があり、その目的は情報を収集し、読書を楽しみ、本の大意をつかむことである。教師は生徒に多読プログラムの目的と方法を教え、生徒の読みに常に注意を払う必要がある。そして、教師は生徒の手本となって意欲的に様々な本を読み、多読において生徒が得るべきものについて語る必要がある。教材としては Graded Readers や Leveled readers、児童書、絵本、漫画などが挙げられる。大下(2007?)の授業実践では、生徒は年間47冊の本を読んだ。彼女は306冊もの本をラベル分けして職員室の近くの本棚に用意した。また多読を日本の47都道府県を旅して回ることに見立て、教室の壁に人数分の白地図を用紙し、生徒が一冊読み終えるたびに地図に貼るシールを与えた。こうして生徒は明らかな目標に向かって多読を進めることができ、常に自分がどのくらい読んだのか確認することができた。多読に関しては試験を課さなかったので、生徒は気楽に読書を楽しむことができた。しかし、試験で英文を読むことはできるのに設問に答えられないというジレンマを抱える生徒が出るなど、問題点もあった。

Conclusion

速読と多読の一番の特徴は、生徒が英語を読む際、日本語に訳すことなく情報を即座に理解し活用できる能力を育成できることである。生徒は精読のように一字一句を細かく丹念に読むことは求められず、自分の興味に合わせて読み進めることができるため、次第に英語を読むことや勉強することが好きになる。情報が氾濫する現代において、私たちは自発的に多くのことを学び、正しい情報を取捨選択し、活用することが求められている。卒業後まもなく社会に出て働き出す生徒が多く在籍する高等学校のリーディングの授業で、速読と多読を扱うことは極めて効果的であり、重要である。