The Learning Methods Using Senses
(感覚を使用した学習法)

60期 AII 類 A. M.

Introduction

今日の日本の英語教育は、文法や構文を重視する傾向がある。その結果として、学習者は英語を頭で理解しようとするあまり、実際に言語として運用する際に戸惑うことがある。そこで、学習者の言語習得・運用がより円滑に行われるように、母語を介さずに視覚や聴覚などの感覚を使用した学習法に着目し、考察する。この方法は、学習者の能力に合わせた教材を使用することで、学習者に何らかの障がいがある場合にも効果を得られることが期待できる。

Chapter I

母語を使わない外国語教授法として、直接法がある。絵や音声などを利用しながら目標言語のみを使用して学習が進められるため、学習者は母語を介さずとも目標言語を理解・活用できると考えられる。しかし、文法や構文などは指導者と学習者の口語的な質問と応答によって帰納的に習得されるため、理解するまでに時間と労力がかかり、また学習者が誤って理解する可能性がある。これらの欠点を補う教授法として段階的直説法が考案された。学習者が自然に言語を習得できるように段階を追って指導されるという点で直接法と異なる。学習者への負担が少なく、また具体的な内容から抽象的な内容へと順を追って学習するために誤解を招きにくいという利点がある。これらの方法は主に視覚的な教材を使用するため、視覚以外の五感に訴えた体験的な学習について考える。
 視覚以外の感覚を取り入れた指導は、すでにいくつかの学校で取り入れられており、それは障がいの有無に関わらず有効である。というのも、「五感力」が低下しつつある現代において物事の感じ方には個人差があり、個人が備え持つ感性を活かした方法によってより効率的な学習が進められると考えられるからである。それぞれの個性をひとつの能力ととらえるならば、各能力に最も適した学習方法が存在するはずである。

Chapter II

個人差を尊重し、いかに個人の知性や能力を高めるかということに焦点を当てたマルチ能力理論では、個人の能力は言語能力、論理・数学的能力、空間能力、身体・運動能力、音感能力、人間関係形成能力、自己観察・管理能力、自然との共生能力の8分野に分けられる。それぞれの能力に応じた学習方法で習得することで、学習がより効率的に進み学習者の意欲も増すと考えられる。またマルチ能力理論では、「障害」を「健康的な個性」とみなし、個人が自身の持つ能力を発揮して問題を解決する方法を提案している。マルチ能力理論に基づいた指導を展開するにあたっては、学習者が持つ能力を把握すること、それにふさわしい指導の準備、また個人がより能力を発揮できるような評価方法を提示するなど、指導者の負担は大きく、実質的な導入にあたっては課題が残されている。

Chapter III

GDMやマルチ能力理論に基づいた指導をし、30人を対象とした学習の能率を調べる調査を行う。あらかじめアンケートを実施して各対象者が持つ能力を調べ、次に8分野それぞれの能力を引き出すような8通りの方法でエスペラント語の単語を提示する。1週間後に対象者がどれほどの内容を記憶しているかを調査するものである。対象者は自身が得意とする能力でより高い学習結果を示すものと予想されたが、調査の結果に顕著な違いが現れたのはごくわずかであった。学習者は必ずしも自身が得意とする能力を使って学習するわけではない、または対象者が持つ能力を判断する方法や学習内容の提示方法に問題があったと考えられる。

Conclusion

言語的な思考にたよらず体験的に学習内容を習得する方法は、学習者の負担を軽減しながら学習意欲を刺激するという利点を持つ一方で、指導者の負担が大きく習得に時間がかかるという欠点も持ち合わせている。マルチ能力理論は、個人が問題を解決する際にいかに自分が持つ能力を発揮できるかという考えのもと展開されており、それは多様な個性に対応した学習方法のひとつと言える。学習者が持つ能力の把握、学習内容の提示方法、適切な評価など、指導者に求められるものも多く、考慮すべき課題は多い。しかし、個人が自身の持つ能力をもってより活躍できる場とその方法を知ることは、さらなる学習意欲へとつながる可能性がある。そのような点でマルチ能力理論の有用性は否定できない。