How to Teach Reading and Writing English to Japanese Dyslexic Students
(読み書き障害を持つ日本人生徒への英語の読み書き指導法)

60期 AII 類 S. F.

Introduction

2007年、日本において特殊教育という名称が特別支援教育となった。かつての特殊教育では対象とならなかった障害(例えばADHDや高機能自閉症など)も支援の対象になったことが大きな変化である。そして、新しく支援の対象となった発達障害の中でLearning Disability (学習障害) というものがある。LDとは、基本的な学力には問題が無いが、読む・書く・計算する・推論する等、特定の分野における学習において困難を持つ障害である。この中で読み書きに困難を持つ障害をDyslexia (読み書き障害) という。Dyslexiaは言語間でその発症率が異なるといわれており、日本語よりも英語に多く発症すると言われている。日本語を母語とする子どもが英語を学ぶ際、日本語では問題が無かったにも関らず英語の読み書きにおいてDyslexiaの症状が現れる可能性がある。英語教育が重要視され、また、特別支援教育に注目が集まる現代の日本において、英語のみにDyslexiaを発症している生徒達に注目する必要性があるのではないだろうか。本論文では、Dyslexiaを持つ日本の生徒達に対する英語教育法について研究する。

Chapter I Dyslexia

Dyslexiaとはどのような障害なのであろうか。DyslexiaはLearning Disability(学習障害)の一種である。LDについては1999年文部科学省が次の定義を発表している。「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。」このLDの中で「読む、書く」という能力に著しい困難を持つ場合をDyslexiaという(Dyslexiaは「読字障害や難読症といった訳があてられることが多いが、Dyslexiaは読むだけでなく書く場合においても困難を持つことが多いことから本論文では「読み書き障害」として扱う)。Dyslexiaの症例として、ASという生徒が注目すべき症状を示している。ASは日本で生まれ、両親は英語話者であった。そのためASは家庭では英語を話した。日本の普通教育を受け、日本語は他の日本人生徒と同等に読み書きができた。しかし、中学の英語学習において英語を流暢に話すことが出来るにも関らず、読み書きは他の日本人生徒よりも困難であった (Wydell & Butterworth, 1999)。

Chapter II Causes of Dyslexia

Dyslexiaの原因は何なのであろうか。なぜ言語ごとでDyslexiaの発症率が異なるのであろうか。なぜASは英語のみにDyslexiaの症状を示したのであろうか。
 Dyslexiaである人の脳は、文字を読む際に他の人とは異なる働き方をすることが明らかになっており、この脳の働き方の違いがDyslexiaを引き起こしていると言われている。また、英語圏では音韻認識障害がDyslexiaの原因であるという説が有力である。英語は日本語と異なり、細かい音韻認識が必要な言語である。言葉の土台である音韻の認識が出来ないと読み書きが困難になってしまう。Dyslexiaの言語間における発症率の差異については 'Hypothesis of Granularity and Transparency' (粒性と透明性の仮説)という仮説がWydellとButterworthによって提示されている。粒性(一文字が持つ音の大きさ)と透明性(一文字と音との対応関係)は言語によって異なり、この違いが言語間におけるdyslexiaの発症率の違いに影響しているとWydellとButterworthは述べている(1999)。このようなことから、ASは音韻認識能力に障害があり、音韻認識能力があまり必要ではない日本語では読み書きができたが、音韻認識能力が必要である英語において読み書きに困難が生じたのではないだろうか。

Chapter III Methods and Supporting Ways

Dyslexiaの生徒への指導について次の四つとその問題点を挙げる。

  1. アルファベットの学習:アルファベットは読み書きにおいて最も基礎的な部分であり、読み書きの学習のためにはこの習得が不可欠である。アルファベットの習得には粘土を用いてアルファベットの形を造り、間違えたところを「bとdはどこが同じでどこが異なるか」というように確認するなど、書くだけでなく様々な感覚を用いた指導が有効ではないだろうか。
  2. 音韻認識能力:音韻認識能力の障害がdyslexiaを引き起こすとされるなら、この能力を向上させることが出来れば読み書きの能力の向上につながるのでは、と考える。
  3. 文字と音との対応関係:文字と音との対応関係の指導としてはフォニックスが有名である。フォニックスは英語圏で広く使用されている指導法であり、日本においてもDyslexiaの生徒への指導法で現在のところ最も有効な指導法であるといわれている。
  4. スピーキングとリスニング中心の指導:読み書き(リーディングとライティング)ではなく聞くこと・話すことを中心に指導することで、読み書きが難しいために英語を学ぶ意欲を失っている生徒が英語をより学びやすくなるのではないだろうか。
問題点としては、第一にそもそも日本語を母語とする日本人が音韻認識能力を英語話者のように身につけることが出来るのか、ということである。第二にフォニックス指導の有用性についてである。第三にスピーキングとリスニング中心の授業には限界があることである。

Conclusion

本論文ではdyslexiaの原因・症例から、読み書きが困難な生徒への指導法やその問題点などについて述べた。これらの指導法はdyslexiaの生徒だけでなく、英語を学ぶ全ての生徒にとっても、より英語を学びやすくなるヒントになるのではないだろうか。dyslexiaの生徒だけに留まらず、全ての生徒の指導において重要なことであるが、dyslexiaの生徒を指導するにおいて最も重要なことはdyslexiaの困難さだけに目を向けるのではなく、その生徒の強みを伸ばしていくことである。読み書きができないことによって自信を失い、強みを伸ばせなくなってしまわないようにするためにも、dyslexiaの生徒がより読み書きを学び易くなる指導法が必要である。日本においてdyslexiaに対する理解が深まり、「努力不足だ」等と言われ、辛い思いをする生徒がいなくなることを願っている。