A Study of Joan G. Robinson's When Marnie Was There: Anna's Spiritual Rebirth
(J. G. ロビンソン『思い出のマーニー』研究:アナの精神的生まれ変わり)

68期 AII 類 T. O.

Introduction

 When Marnie Was Thereは主人公の少女アナの精神的な再生を扱うファンタジー作品である。主人公アナは心に大きな問題を抱えており、転地療養の先で、後に自分の祖母だと気付くことになる少女マーニーと出会う。アナは時を越えて現れたマーニーとの体験を通して、心を回復させていくのである。この論文では、アナが心に抱える問題を分析し、マーニーがアナにどのような働きをもたらすかを明らかにした上で、アナが精神的に生まれ変わる過程を考察していく。

Chapter 1 Anna's Problem

 第一章ではアナが抱える深い孤独感の分析を進めていく。ロンドンに住むアナが転地療養のために海辺の小さな町に行くに至ったのは、周囲の人とよい関係を築けていなかったことにある。アナは幼い頃に祖母や両親を失い、孤独の中で暮らしており、また家族に愛される経験をしてこなかったと思っているのである。実際、家族からの愛情を知らないアナは自分が他の人たちとは異なっていると感じており、アナが見る世界にもそれが表れている。アナは世界が"inside"と"outside"に分かれていると見ており、愛情を知らない自分は"outside"の人間で、愛情によって人々がつながっている"inside"の世界から閉め出された存在だと思っている。"outside"の世界では、"inside"の人との関係が絶たれており、それは自分を守ることができる一方で、自らの存在価値が分からなくなってしまう。アナは自己認識の危機へと陥っており、これがアナの心に抱える深い問題である。

Chapter 2 Anna's Encounter with the Past

 第二章では転地療養の先で見つける湿地屋敷とそこに住むマーニーに焦点を当てる。アナは療養のため訪れた新たな町で湿地屋敷として知られる古い家を見つける。湿地屋敷は人里離れた海辺に建てられており、アナはその家が「ずっと長い間そこにあり」、またその家は「今は眠っているにすぎない」というような不思議な感覚に襲われる。そしてアナはその家で同い年ぐらいの不思議な少女マーニーと出会い、親しい関係を築くようになる。湿地屋敷でマーニーと過ごす間、アナはマーニーに普段の生活について聞かれても思い出すことができない。マーニーと過ごしている間、アナは現実の世界と乖離してしまうのである。それは湿地屋敷の持つ不思議さ故に起こりうるものであり、その不思議さに魅了されたアナはマーニーとともに過ごす時間をアナの人生の中で最も幸せな時間と感じる。アナが孤独の中で見つけたマーニーとの出会いは自身の心の回復のきっかけとなっているのである。

Chapter 3 The Crack in the Friendship between Anna and Marnie

 第三章ではアナが愛する力を取り戻すために、マーニーがどのような役割を果たすかを分析する。アナはマーニーと友情関係を築いていたが、マーニーに裏切られる経験より二人の関係にひびが入る。マーニーは自らの行為の赦しを請い、その時アナはマーニーを赦すかどうかの判断が迫られる。つまりこれはアナにとって自らの凍結した愛情をよみがえらせることができるかの選択の瞬間なのである。アナは赦すことを選び、その選択はアナの中にマーニーに対する愛情が芽生えていることの表れである。裏切るという行為は憎しみや苦しみの感情を生むが、それらの感情は愛情を向けている相手だからこそ生まれるのであり、愛情がなければ憎むことができない。つまりマーニーはアナが愛する力を回復させるのを助長するのである。
 アナはマーニーとの出会いにより心を回復させていくが、一方でマーニーとの体験は現実の人から見ると、アナの幻想の中での出来事である。アナが真の意味で魂の修復を果たすためには、孤独感を抱くに至ったアナの過去を明らかにしなければならない。そのため、マーニーはアナのもとから消え、アナが現実世界へ目を向けることを促すのである。

Chapter 4 Love Hidden in the Past: Forgiveness Revives Love

 第四章ではアナの過去に焦点を当てる。マーニーと別れたアナは現実世界の人々と関わり、マーニーが自分の祖母であり、自分のことを愛してくれていたことを知る。幻想の中でマーニーと出会い、現実の世界の人々と関係を築く準備が整っているからこそ、アナは自らの隠された過去を知ることができ、愛してくれていなかったと思っていた祖母が実際には自身のことをとても大切に育ててくれていたことに気付くのである。現実世界の人との出会いによりアナは自らの過去を知り、その結果、魂が回復し、自己認識を取り戻すことができたのである。

Conclusion

 アナとマーニーとの出会いは、現実的な視点から見るとアナの幻想の中で起こったものである。しかしアナがマーニーとの間で築いた友情はアナの心の中では本物であり、アナが本当の自分を見つけ、愛情を回復させるための助けとなったのである。アナは時を越えて幼い少女としての祖母マーニーと出会うことで、新たな人間として精神的に生まれ変わることができたのである。