A Study of E. A. Poe's "The Fall of the House of Usher": Beauty and Death
(E. A. Poe「アッシャー家の崩壊」の研究:美と死)

68期 AI 類 K. I.

Introduction

 アメリカ作家のRalph Waldo EmersonやHenry David Thoreau、Nathaniel Hawthorne、Walt Whitmanが次々と偉大な文学作品を生み出したことから、アメリカ文学は19世紀半ばに新しい時代を迎える。有名な文芸批評家の F. O. Matthiessenは、この時代を「アメリカン・ルネサンス」と呼んだ。彼はその概念の中にE. A. Poe (1809-1849)を入れていなかったものの、Poeの作品は、上記の作家たちに見られる、特に世界の見方における特徴を示していた。Poeは世界には不可解な謎が存在し、人間の心理こそが一種の謎であると考えていた。Poeは自身の短編の多くで、人間の不合理な心理を主題として劇化する。
 この論文では、Poeの代表作と言われる"The Fall of the House of Usher"を取り上げ、病的な恐怖やそこに存在する美に焦点を当て、考察・分析をしていく。

Chapter I The Description of the House of Usher

 Chapter 1ではUsher家の狂気じみた雰囲気と屋敷の持つ説明することのできないような死の力について分析する。"The Fall of the House of Usher"では、語り手が主人公である旧友のRoderick Usherの屋敷を訪れる場面から始まる。Usher家の周囲の自然は荒廃し、そこには何か魂を圧するような暗い力が働く。さらに語り手がUsher家の前にある湖をのぞき込むと、逆さまに移ったUsher家の姿が現れる。湖に映った屋敷の転倒は、この小説世界の転倒であり、非日常性やUsher家がいかに世界から逸脱しているかを暗示している。Usher家の周囲には、非現実の空間と時間に人間を誘い込むようなGothic的雰囲気が存在するのだ。そして語り手は屋敷の外部を調べ始めるが、屋敷の屋根から地面まで伝うひび割れを発見する。このひび割れは、後のUsher家の崩壊の予兆させるものである。Usher家は常に滅びの運命に縛られた存在なのであり、そこの住人であるRoderick Usherと双子の妹であるLady Madelineもまた、消滅を予感させると言えるだろう。

Chapter II Obsessed with Fear: Roderick Usher's Hyper-sensibility

 Chapter 2では、Roderick Usherの過度に鋭敏な感覚による精神の異常に焦点を当てる。またその際に、Lady Madelineとの精神的な繋がりについても考えていく。語り手はRoderickと再開し、数週間屋敷に滞在することを決める。Roderickの外見はまるで死者の様に描写され、屋敷のみならず、住人であるRoderickにも常に「死」がまとわりついている。さらにRoderickは恐怖に縛られている人間である。Usher家最後の末裔であるRoderickとMadelineは滅びの運命にあり、死への恐怖や不安が重くのしかかっている。Roderickはその恐怖を少しでも軽減するために漠然とした絵画を描く。彼は自分に内在する恐怖を、絵画という形で明確化し、取り出していると言える。次に、Roderickは双子の妹であるMadelineを生きたまま埋葬してしまう。双子である彼らの精神は元々1つであり、それが二分化し、別々に存在していると言える。そこでRoderickとMadelineの間には何か精神的な繋がりがあると考えられる。つまり精神的な繋がりを持つ彼らにとって、Madelineの死はRoderickの死であり、Madelineが死ぬことはRoderickの完全な精神の崩壊を示す。そして埋葬されたMadelineは若く、美しさの盛りにある。Madelineの死によって彼女の時間は停止し、若さの盛りにある美が永遠に凍結した状態で留まっている。

Chapter III The Death of Roderick Usher and Lady Madeline

 Chapter 3では、RoderickとMadelineの死の描写について考察・分析をしていく。そしてRoderickはMadelineを生きたまま埋葬するわけだが、Chapter 3ではその行為の理由も考察していく。Madelineは不治の病により、Roderickより先に死んでしまう。そしてその死体を語り手とRoderickが埋葬する。元々1つの精神から成るRoderickとMadelineは精神の繋がりにより、互いを求め合う。それは現世では禁じられた兄弟愛であり、それが可能となるのは現世を離れた死後の世界である。つまりRoderickは死の領域でのMadelineとの合一を本能的に望み、死への願望を持っていると言える。そのRoderickを掴んで離さない死への衝動が、Madelineの早すぎた埋葬を引き起こしたのである。精神的な繋がりを持つRoderickとMadelineにおいて、片方の死は不十分であり、もう一方の人間も死の領域に誘われることになる。言い換えれば、RoderickがMadelineを埋葬するという行為は、いずれ訪れる自分の死への期待が引き起こしたものである。そして物語の後半には、埋葬したはずのMadelineがRoderickと語り手の目の前に現れ、彼女はRoderickの上にのしかかるように襲いかかり、2人は死んでいく。RoderickとMadelineが重なり合うという行為は、彼らの魂が本来の1つの状態への回帰を暗示する。RoderickとMadelineの本来の存在状態への回帰とは、死の領域でのみ成立する美と愛の融合した状態である。

Conclusion

 Roderickは死の領域でのみ許されるMadelineとの永遠の合一、永遠の美の享受の喜びを求めていると言える。そこにはRoderickの持つ死への衝動が背景として存在している。死への衝動は、非常に不合理なものであり、人間に内在する謎である。そしてPoeはその死への衝動や願望に焦点を当て、ドラマ化したのである。