A Comparative Study of E. A. Poe and Rampo Edogawa with a Special Reference to the Treatment of Mysteries
(エドガー・アラン・ポーと江戸川乱歩のミステリーにおける比較研究)

66期 AI 類 R. K.

Introduction

 ミステリー小説の先駆けとなった人物は誰か?19世紀のアメリカの小説家、E.A.Poeが描いた「モルグ街の殺人」と言われている。殺人事件を扱った作品は多くあったが、その中でも彼は謎を解き明かすことを種に新たなジャンルを作り上げた。彼の作品は多くの作家に影響を与え、日本のミステリー作家である江戸川乱歩もその一人だ。彼は自身の筆名をポーからもじって作成しており、事実、彼の作品にはポーへの敬愛ともとれる表現が多く現れている。時代を超えて乱歩がポーから学んだもの、ポーと異なるものは何かを彼らの作品から分析していく。

Chapter I The Analytical Features in Poe's Stories

 ポーの作品においてどの部分がミステリー小説たらしめたのか。「モルグ街の殺人」から分析していく。この作品において彼はまず自分自身の論である分析的思考力の大切さを述べ、その論を裏付けるために分析的思考力を備えている主人公デュパンを用いた話を付随している。とあるモルグ街の一角にて殺人事件が発生した。現場は密室状態であり、被害者である二人の親子のうち一人は首を掻き切られ、もう一人は逆さまの状態で煙突の中に押し込まれていた。目撃者たちの証言によれば、犯行時にどこの言葉かわからないような言葉が聞こえてきたという。また、被害者は大金を数日前に受け取っていたという情報があるにも関わらず、現場の金品には手をつけられていなかった。警察はこれらの情報から真相を導き出すことができずに誤った人を逮捕してしまう。分析的思考能力を持たない警察は事件の解決の際にある程度の偏った推測を持って捜査していく。現場の状況を見て一貫したストーリーを先に作り上げていくことで、そのストーリーに当てはまるような証拠を探し出し、障害になるものがあれば排斥していくことで操作は一応の進行を見せるのだ。だが、デュパンの分析というのは我々一般人や警察が行うようなある種偏見的な思考法とは異なるのだ。それは、複数の要因を線で結ぶのではなく点としてみることで、一つの証拠に対しあらゆる可能性を考えていくことで結論に収束していくという、高い次元での観察力がもたらしめる能力である。

Chapter II Rampo's Respect for Poe in His Mysteries

 ポーの作品を見た乱歩はどのように自身の作品に溶けこませて昇華していこうとしていたのか。「二銭銅貨」、「D坂の殺人事件」、「心理試験」の三作品から考察した。いずれの作品もポーについての言及があったりポーから着想を得ただろう設定が多く存在している。ポー式のディシファリングでは解決できない暗号というのをあえて明記したり、密室殺人を当時平屋が多く開放的だった日本の暮らしの中で密室殺人を作り上げた。乱歩は、ポーの暗号や設定を純和風化していくことに成功している。また、いずれの登場人物も分析的思考能力を備えた人物が登場し謎を解決していくというストーリーが展開されていくのだが、乱歩はそこに作中では解決できない(言及しない)新たな謎を入れることによって読者に新たな知的好奇心をもたらすことに成功している。二転三転する結末を描き、日本風に作り変え新たな作品を作り上げながらも、ポーの名前を作中で使用することに、乱歩のポーに対する敬愛ぶりが見て取れる。

Chapter III An Eccentric World by Two Writers

 ポーの作品は自身の論を付随したストーリーなのになぜ多くのミステリー作家や読者に愛されてきたのだろう。その理由の一つとして読者が普段の生活では見ることのできないエログロ的要素を付け加えていることだろうと考える。普段見れないものを見たいという根源的欲求に着目したポーは、エログロ的要素を作中に入れ込んでいる。「モルグ街の殺人」では純潔の象徴である女性が寝室で首を掻き切られるなど無残な形で殺害されている。被害者がこれほど残酷に殺されている状況を小説の中で読者は感じることができ、非日常を体験することができているのだ。これを見た乱歩は自身の作品にもそういった要素を取り込みながらも細やかな心理描写を描くことで読者の好奇心を刺激している。「屋根裏の散歩者」の中で乱歩は犯人側からの視点を描き、犯行に至るまでの経緯や逡巡などを細やかに描写している。読者は登場人物の心理描写にトレースしていき、まるで自分自身が犯行を行っているかのような錯覚に陥る。第三者としてではなく当事者として普段見ることのできない世界を「見る」のではなく「疑似体験」することができることが乱歩の魅力の一つであると考える。

Conclusion

 ポーの作品はミステリー小説という新たなジャンルを作り上げた。謎―論理的解決の仕組みや登場人物、設定におけるまで現代のミステリー作家にも多大なる影響を与えている。その基盤から乱歩は日本でのミステリー作品を描き、心理的描写などを付け加えるなど新たなミステリーの形を作り上げた。二人の作品は現代のミステリーにおいても基盤であり、乱歩がポーに影響を受けたように多くの作家に影響を与えているだろう。