The Structure of the World in C. S. Lewis's The Chronicles of Narnia
(C. S. ルイスのナルニア国物語における世界の構造)

66期 AII 類 K. S.

Introduction

 C. S. ルイスはイギリス出身の中世ルネサンス期の文学研究者であり,また,キリスト教の伝道師でもある。『ナルニア国物語』はルイスの作品の中でも最もよく知られたものの一つであり,ロンドンからナルニアを訪れる子どもたちの冒険を描いたファンタジーである。この『ナルニア国物語』は一般に聖書と関連があると言われており,実際に作中においてキリスト教の教えを反映している場面が散見する。こうしたキリスト教との関連を中心として,全7巻のうち,出版順の1, 6, 7巻を主に取り上げながらナルニアの世界の構造について分析していく。

Chapter I Good and Evil in The Chronicles of Narnia

 『ナルニア国物語』では全7巻を通してキリスト教における善と悪の戦いが描かれている。Chapter 1では,この戦いに焦点を当てて,物語における善悪について考える。ここで特筆すべき登場人物として2名の魔女とナルニアの王Aslan,そして主人公の4兄弟姉妹の次男Edmundが挙げられる。出版順第6巻に登場する魔女Jadisは作中で罪なき国民や動物たちを皆殺しにする恐ろしい魔法を使って1つの世界を滅ぼしており,自己の目的のためであればそれは当然のことであると考えている。第1巻では,White Witchと呼ばれる魔女が女王を名乗ってナルニアで悪政を敷いており,自身の死を暗示する予言の実現を妨げるためにEdmundを利用して4人全員を皆殺しにしようと試みる。Edmundは兄弟姉妹の間での孤独感や傲慢さがWhite Witchの魔法によって引き起こされ,3人を裏切ってしまう。しかし,White Witchと同行中に彼女に魔法で石にされそうになっている動物たちを守ろうとするなどの行動を示し,最後にはナルニアの王Aslanが自らを生贄に捧げることによって救われる。AslanやEdmundの自己を顧みずに他者を思いやる心を愛と呼び,これが善となる。一方でJadisやWhite Witchの行動は自己中心的で愛を欠いており,これが悪として描かれているのである。

Chapter II Connections between the Bible and The Chronicles of Narnia

 『ナルニア国物語』の中でAslanはキリストに対応する登場人物であり,彼の行いや教えはキリスト教の聖書のそれと酷似している。Chapter Iでも言及したAslanがEdmundの生贄となる場面はキリストの磔刑の場面と対応しており,また,その後の復活も合理性を超越した奇跡として描かれている。さらに,キリストに見られる慈悲深さと厳しさの両面についても物語の中でAslanは体現している。前者においては出版順第6巻の中で病気の母を持つ主人公の少年Digoryのために涙を流し,最後には彼女を救っている。一方で同作中においてAslanはDigoryがナルニアの国に悪,つまり魔女を連れ込んだという罪を指摘し,償わせるという厳しさを見せている。さらにこの慈悲深さと厳しさについては第7巻で描かれる最後の審判において顕著となる。ナルニアの国が終焉を迎えたとき,神を信じ,仕える者はAslanによってAslanの国へと導かれ,そうでないものは闇の中へと消えるのだ。物語の中でAslanこそがナルニアの世界の中心なのである。

Chapter III The Beginning and the End of the World of Narnia

 ナルニアの世界の創造と終焉はそれぞれ出版順第6, 7巻で描かれる。天地創造の場面は創世記と対応しており,Aslanの歌声とともに星が輝き,歩くと草木が芽生え,大地から動物たちが誕生していく。さらにAslanは動物たちの中から1種につき1番いを選んで言葉を話すことができるようにする。これが動物たちにAslanから与えられる自由意思である。言葉を話す動物たちはAslanによってAslanを信仰するように促されるのでなく,自由意思によって自らAslanへの信仰を選び取るのである。こうした天地創造はナルニア最初の冗談なども加わって明るく楽し気な雰囲気で彩られるのに対し,ナルニアが終焉を迎える第7巻は暗い雰囲気に満ちている。聖書の中でイエスの名を名乗る偽物の出現が世界の終わりの始まりであると語られるが,第7巻は偽りのAslanの登場から物語が始まる。最後にはナルニアの国が崩壊し,神に仕える者は最後の審判によってAslanの国へと導かれる。ここではプラトンのイデア論の考えが組み込まれており,ナルニアの崩壊と肉体的な死によって影の国から真の国へと導かれるのだ。ナルニアの始まりと終わりは,聖書における天地創造と最後の審判,そしてプラトンのイデア論が組み合わさったものなのである。

Conclusion

 ナルニアの世界の中心にはAslanがあり,ナルニアの住人は彼らの示す愛に対してAslanによる救いの形で報われる。ここに信仰が実現しているのだ。著者のキリスト教的且つ哲学的な考えがナルニアの独創的な世界に表れているのである。