Themes and Techniques in O. Henry's Short Stories
(O.ヘンリーの短編小説における主題と技巧)

65期 AII 類 K. H.

Introduction

 O. Henryは20世紀初期にアメリカで活躍した短編小説家である。彼は数百もの短編小説を世の中に送り出した。いくつかの作品は現代においても人々に広く傑作として知られている。作品はニューヨークを舞台としたものが多く、彼の作品集の1つであるThe Four Millionは当時のニューヨークの人口を表したものである。彼は都市部に住んでいる人々に焦点をあてた作品を多く書いている。作品に登場する人々は財政面や社会的な面で何らかの苦難を抱えており、O. Henryは都市に住んでいる人々に共感を持っていたようだ。彼のよく知られている小説の構成として "surprise ending"が挙げられる。それは序盤では明かされない情報が結末で読者を驚かせるものである。本論文の目的は、O. Henryの作品を分析することで、彼の短編小説の魅力がどこに潜んでいるのかを明らかにすることである。

Chapter I O. Henry and His Times

 O. Henryが生まれた19世紀後半に、アメリカの雑誌産業は大きな転換期を迎えた。出版社は収入源を雑誌の定期購読から広告へと移し、莫大な広告収入を基にして低価格の雑誌の大量生産に成功した。その背景には、印刷技術の発展や民衆の購買力の増加、教育の普及に伴う市場の拡大があった。
 雑誌の移行が行われた一方で、編集者たちの従来の方針も変化を迎えた。編集者によれば、読者を楽しませるには3つのポイントが存在した。登場人物や主題、舞台など読者が興味を惹かれるものが作品に含まれていること。小説の楽しさが理解できるような簡単な英語で小説が書かれていること。そして、読者の期待に応えるようなハッピーエンドで物語が完結することの3点である。これらの点においてO. Henryの作品は、人間の本能的な善性に対する彼の信頼が表現されており、読者の興味を惹くには十分なものであったと考えられる。彼は比喩や方言といった回りくどい表現を時々することはあったが、作品は基本的には万人に読みやすい英語で書かれていた。
 広告を通してO. Henryの作品は短編小説に関連した新しい風潮を促進していった。1910年代には、短編小説の手引書が出版されアメリカで数多くの読者を獲得した。これらの本には、小説の導入の仕方や結末における読者の引き込み方などが述べられており、O. Henryの小説が当時のアメリカにおいていかに公衆の短編小説に対する興味を刺激したかがわかる。

Chapter II His Trust in Human Goodness

 前に述べたように、O. Henryの作品は人間の善性に焦点を当てたものが多い。それらは善意や同情、愛情や友情、良心といった人間のポジティブな要素である。彼は憎しみや悲しみといった人間の暗い一面ではなく明るい一面に焦点を当てた物語を展開している。この章では、いくつかの作品を例としてO. Henryの人間の善性に対する信頼感を分析した。
 "The Gift of the Magi"では「愛情」が最も大きな主題となっている。O. Henryは登場人物がお互いにクリスマスプレゼントを買うためにそれぞれ最も大切なものを売る事実を描写することで、彼らの愛情を表現している。作品の結末で作者は聖書における賢者と登場人物の2人を比較している。聖書における賢者は、「東方の三賢者」と呼ばれておりイエス・キリストが生まれたとき、金・乳香・没薬をもって彼の元を訪れたとされている。"The Gift of the Magi"のDellaとJimの2人の贈り物は、賢者の贈り物と同等の価値を持っていたと考え、それゆえのタイトルではないかと考えた。

Chapter III Analysis of His Techniques

 この章では、O. Henryが読者を引き込ませるためにどのような技法を用いたのかを分析した。2章で述べたように、人間の善性についての主題は"surprise ending"の使用によって強められている。彼は舞台設定や登場人物の性格、関係性やそれに関連した結末を効果的に描いている。O. Henryが書き上げた作品はほとんどが語り手である第三者の視点で物語を展開していく。読者は登場人物の行動や言葉から、人物の感情を読み取らなければならない。物語の語り手は全知全能の存在である。彼は物語の序盤から結末まですべての情報を持っているが、あまりに多くの情報を与えすぎると物語の構成がわかってしまい、読者たちは物語に対する興味を失ってしまう可能性がある。よって、語り手は情報の取捨選択をしながら読者を"surprise ending"へと導いていくのである。また、時にO. Henry自身が語り手として作品内に登場することがあり、これを"Authorial intrusion"と呼ぶ。この作者の介入が行われるとき、作者と読者の間には何らかの価値観の共有が必要となる。同じ価値観を持っていることで読者を誘導しやすくなり、結末へと引き込みやすくなる効果が期待できるのである。

Conclusion

 O. Henryの短編小説には、4つの要素が組み合わされている。1つ目は読者を引きつける出だしである。2つ目は最後の瞬間まで大切な情報を隠し通す語り手の存在。3つ目は機知や皮肉といった、人々を広く楽しませる論調。そして最後に慈悲深い悪者の存在である。これら4つの要素がO. Henryの作品の代表的なものとして取り上げられているのである。