A Study of Lois Lowry’s The Giver
(Lois LowryのThe Giver研究)

61期 AII 類 M. H.

Introduction

 私が英語教育コースに在籍しながらも、卒業論文テーマを英語教育に関連するものではなく、英米文学についての研究テーマを選択したきっかけは、大学一年の時の短期留学での英米文学の授業である。その時に、恥ずかしなから初めて、英文で書かれた本を一冊読破するということを経験した。それまでは、英米文学などとは疎遠であった私だが、留学時の授業で読んだLois Lowryの代表的児童文学であるThe Giverに魅了され、この本を卒論のテーマとして取り上げ研究したいと思った。
 Lois Lowryは1937年生まれの女性児童作家である。これまで書いた作品でThe Giverを含め、2つの作品がNewbery賞を受賞するなどしている。彼女の作品で共通していることは、平和や愛をモチーフにし、人々の相互依存が大切だと伝えている点である。
The Giverは、1993年に出版されて、世界各国で翻訳され、アメリカやカナダなどで教科書として採用されている。しかし、一方で、アメリカの一部の機関で批判されており 1990年代の“banned book”として挙げられている。
 この本のあらすじは、The Communityと呼ばれるディストピア世界で、Jonasという12歳の少年がそのディストピア世界を変えていこうとする話である。この世界では、平和を保つため、記憶と言うものが排除されている。例えば、人々は戦争、飢餓、色、音楽などありとあらゆる記憶がないので、その結果、多くの苦しみから逃れることができている。しかしその反面、人間としての多くの喜びを知らない。また、管理社会であるこの世界は、人々はプライバシーを持てないし、性欲さえも薬で抑圧されてしまう。表面上の平和と引き換えに、人々は大事なものを失っているのだ。そんな中、Jonasはただ一人、記憶を受け継ぐものとして、この世界を変えていこうと奮闘する。

Chapter I Dystopia

 第1章では、The Communityという世界をとりあげ、この世界が表面上はユートピア世界でも、本当はいかにディストピアであるかをその要素を一つ一つ取り上げ分析している。まず、この世界には記憶と言うものがないのは大きな要素だ。記憶がないということは、つまり人々はありとあらゆる知識をもたない。戦争、飢餓、雪、色、音楽などが何か知らないのである。それはつまり、戦争や飢餓を知らないということで、人々はありとあらゆる苦しみを避けて平和に生きることができる一方で、色や音楽を知らないので人間として感覚的喜びもまた知らないで生きている。人工的に作り上げられた不気味な平和の世界の中で生きる人々はとても弱々しい。
 そして、第2に、この世界は反自然的世界であることだ。Jonasをはじめとしてこの世界の住人は、性欲をピルと呼ばれる薬で完全に抑制される。性欲と言うのは人間の根本的な欲求であり、自然なものであるが、それを人工的に支配するというのは、反自然的だ。
 最後に、この世界が管理社会であることを述べている。ここでは、自分の感情や夢を全て家族に話さなければならない儀式があり、住人はプライバシーを持つことができない。また、自由な選択権は与えられず、仕事や結婚や出産はすべて与えられる。また、鏡や本などが排除されていることから、住人はアイデンティティを喪失もしている。
 こうして、大きく3つの要素がこの世界をディストピアにしている要素であり、この世界の大きな特徴なのである。

Chapter II Jonas the Revolutionary

 第2章では、主人公Jonasの存在意義について述べている。Jonas の身体的特徴や精神的特徴をあげて、Jonasがこの世界でいかに特別で、周りの人々とは違う要素を兼ね備えているかと言う事について書いてある。さらに、この章で最も重要としていることは、Jonasが二面性を持つキャラクターであるということだ。その二面性とは、この世界における、犠牲者的側面と革命児的側面である。この世界で、Jonasはただ一人記憶を持つ少年であるために、記憶を持つことで請け負う苦しみを一身に背負っている。そして、それは、他の人々が記憶を持って苦しまないようにするためなのだ。しかし、記憶は平等に持つものだとして考えるJonasは次第に、この世界に反発心を覚え、この世界を変えていこうとする革命児なのだ。

Chapter III Satire in The Giver

 第3章では、The Giverがこの現代社会を風刺しているのではないかという考えを述べている。ユートピア小説やディストピア小説が、現代社会を風刺する傾向があるのでこのThe Giverにも多少なりともそのような傾向がみられると感じ述べてある。
 現代社会では、高度産業社会が出現して以来、機械化が進み、効率化が常に図られている。そのような社会の中で没個性化が目立つようになっている。さらに、情報社会になり、インターネットや携帯でプライバシーが侵害されているのもまた事実である。そのような現代社会を批判しているのではないかと思う。
 また、The Giverで描かれている世界は現代社会の行く末が表現されているのではないかと思う。この世界では、無駄なものは一切排除されているので、愛という感情も存在しない。我々の現代社会もこのような世界が進めば、いずれ愛や絆が無くなってしまう世界を迎えてしまうのではないかと言う懸念が現れているのではないだろうか。

Conclusion

Lois Lowryの描くこのディストピア世界は少し不気味な世界で恐ろしい。しかし、我々読者に、戦争や飢餓の恐ろしさや愛や平和人と人とのつながりの大切さを改めて思い出させてくれる。また、作者自身もそれを子どもたちに一番伝えたいのである。物語の構成もとても巧みであり、読者を引き込んでいくのもこの小説の特徴である。子供たちに人間の相互依存の繋がりや愛を伝えるこの本は、とても児童文学として優れていると思う。