Perversity of Man in Poe's Short Stories
(エドガー・アラン・ポーの短編小説における人間の倒錯性)

57期 AII 類 Y. S.

Introduction

エドガー・アラン・ポーの数ある短編小説の中から、人間の倒錯性を主要なテーマとして扱っている3つの作品を分析しながら、ポー自身が人間の倒錯的な性質についてどのように考えているかを考察していきます。

Chapter 1 "The Tell-Tale Heart"

第1章で扱う"The Tell-Tale Heart"は、使用人である主人公が主人のハゲワシのような目に対して感じる嫌悪感に耐えられず主人を殺害するという物語です。ハゲワシのように鋭い主人の目、物語の舞台となる主人の寝室と真夜中の殺害、使用人を自白へと追い込む彼が主人を殺害するときに聞いた主人の心臓の音などを、心の働きの視点から分析していきます。そして、それらの要素が人間の意識と無意識、人間の本能的・動物的性質などを表すものとして考察しました。

Chapter 2 "The Black Cat"

幼少期から動物に囲まれて生活してきた主人公は、動物好きである女性と結婚し夫婦の間でペットを飼うが、アルコール依存症になり妻やペット達に虐待をするようになります。そして一番のお気に入りであった黒猫を殺してしまい、仕舞いには妻を殺害します。黒猫を殺した夜に火事により家が全焼したり、殺害した妻を隠していた場所から黒猫が現れたりと、主人公の周りで起きる奇妙な出来事と黒猫・妻との関係を分析し、主人公の心の中の母性との葛藤の表れと脅威として描かれていると考えました。

Chapter 3 "The Imp of the Perverse"

この物語は第1章と第2章で扱う作品とは少し異なり、物語の半分が主人公の人間の倒錯性に関する説明になっています。その説明の中で、この作品が書かれた当時栄えていた骨相学や宗教は演繹的な考え方であり、人の倒錯的な性質は帰納的な考え方でしか気づくことはできないと主人公は語っています。演繹的考察と帰納的考察を比較しながら、作者であるポー自身が倒錯性だけでなく物語の中で言われる「人間の根本的・原初的性質や衝動」について、日常の道徳や信仰の中で見落されていると考えているのではないかと分析しました。

Conclusion

これらの作品の中で、人間の倒錯性というものが人間の心の中の第一の衝動として存在していると書かれているが、ポー自身は倒錯的な行動は、倒錯的性質という衝動からではなく、他の理解しがたい衝動、"The Tell-Tale Heart"においては人間の本能的・動物的な衝動、"The Black Cat"では心の中にある母性の働きなどにあると考えているのではないかと思います。