A Study of B. Stoker's Dracula:Pathological Dracula -
(『ドラキュラ』研究−病理のドラキュラ)

50期 II 類 R. K.

ストーリー

若い事務弁護士(solicitor)のジョナサンは、トランシルヴァニアの古城に住むドラキュラ伯爵を訪ねる。ドラキュラ伯爵はイギリスに地所を購入しようとしていて、そのための事務的な手続きをジョナサンの勤める事務所に頼んでいる。ドラキュラ城に行くその道すがら、ジョナサンは様々な不吉な話を耳にしたり、超自然的な体験を経て、ドラキュラ城に不安のうちに到着する。ドラキュラ伯は初めのうちは非常に礼儀ただしい人物に思はれた。しかし、しだいにその本性が明らかになっていく。ドラキュラはジョナサンに対する接し方こそ紳士的であるが、その人間離れな動き、様々な振る舞いの際に現れる特徴は、ジョナサンにドラキュラは怪物であり、悪の根源であると十分納得させるものであった。ジョナサンは、ドラキュラにより城に監禁され、生命の危機にさらされる。やがて、ドラキュラは、ロンドンにやってくる。彼はルーシーというジョナサンの妻の幼馴染を襲う。ルーシーは日に日にやせ衰えていく。そして、ルーシーの行動に変化が現れる。ルーシーの異常に気づいた彼女の友人達、ヘルシング博士によりドラキュラがその元凶だとわかる。ヘルシング博士をはじめとする一行は、ドラキュラの魔の手からルーシーを守ろうと試みるが失敗しルーシーは死ぬことになる。ドラキュラは次にジョナサンの妻ミーナを襲う。そのころジョナサンは、命からがらドラキュラ城より脱出しロンドンに戻ってくる。ミーナはジョナサン、ヘルシング博士、ルーシーの男友達の協力により助かる。やがて彼らは悪の根源であるドラキュラを滅ぼそうとドラキュラ城にむかう。彼らはドラキュラとの死闘の果てについにドラキュラを滅ぼす。ドラキュラ城からロンドンにもどり7年後、ジョナサン、ミーナと彼らの息子クインシーは再びトランシルヴァニアを訪ねる。ドラキュラ城は以前のままで、旅行後金庫にしまってあった書類をみると、その中に一つも不死者であるドラキュラを認証できるものがなかったことに気づく。

物語の特質

ストーリーの舞台はヴィクトリア朝イギリスである。当時のイギリスの世界観からみる異質の世界への関心と恐怖がコンテキストのあらゆるところから表出している。例えばジョナサンをはじめとするドラキュラに立ち向かう側が西欧の人間で善の存在として描かれ、ドラキュラはトランシルヴァニアという東欧に住む悪の根源である怪物として描かれている。この善対悪の二項対立を通しても、当時の世界観、ひいてはその側面から見た病理学的側面の特徴があらわれてくる。また、ドラキュラというキャラクターは極めて強い影響力のある特質をもつ。我々がドラキュラの風貌と聞いてよく連想するのはクリストファー・リーにより演じられたキャラクターのそれだが、吸血、黒いマント、不死者等、存在が普遍的ですらある。故に、現代の我々にも、ドラキュラという作品のもつ様々なテーマ性がスライドでき、ヴィクトリア朝の時代観の知識が少なくとも、その当時の人間とほぼ同じ印象を受けながら作品をよめる。

Introduction

『ドラキュラ』にはヴィクトリア朝の人々の世界観が反映していることを述べた。

Chapter I Count Dracula and Vampire

あまたの吸血鬼譚のなかにおけるドラキュラの位置、それを裏付けるドラキュラのキャラクターの分析。

Chapter II Implications in Dracula

『ドラキュラ』に含まれる様々なテーマは約12個ある。その中でチャプター3と結びつくと思はれる部分ついて個々にアプローチした。

Chapter III Pathological Aspects in Dracula

チャプター2で、個々に分析したドラキュラの含意から表出する病理的側面をヴィクトリア朝の衛生観と比較対照したうえで示した。

Conclusion

イギリスの病理的恐怖は、西欧以外の土地や合理的思考以外のものから現れているとヴィクトリア朝の人々が考えている。当然、その恐怖の温床はヴィクトリア朝イギリスにあったからで、その病理の温床を他者に求めた、しかし、それは単に他者に重ねた自らの肯定したくない像を顧ている行為で、それは間接的なゼノフォアビアの表れとして述べた。

Bibliography

  • Bram Stoker, Dracula (Puffin Books, 1986)
  • Bram Stoker, The Essential Drcula (Penguin Books, 1993)
  • 榎本眞理子 『イギリス小説のモンスターたち』(彩流社 2001)
  • 村岡健次 『ヴィクトリア朝時代の政治と社会』(ミネルヴァ書房 1980)
  • 丹治愛 『ドラキュラの世紀末 −ヴィクトリア朝外国恐怖症の文化研究』(東京大学出版会 1997)
  • 蔵持不三也 『ペストの文化誌 −ヨーロッパの民衆文化と疫病』(朝日選書 1995)
  • 河合隼雄 『影の現象学』(思索社 1996)