A Study of Polite Expressions in English
(英語の丁寧表現)

67期 AII 類 K. T.

Introduction

 この論文で主に扱うのは英語の丁寧表現である。日本語は「敬語」というものによって様々な丁寧表現がなされるが、英語にはそれに当たるものはない。だが、これは英語に丁寧表現がないことを意味するわけではない。現行の学校教育ではいくつかの丁寧表現を学習するが、これは円滑なコミュニケーションにおいて充分とは言えないだろう。実際に私は語学留学中に丁寧表現に関する感覚のずれを経験した。"Would you like me to pick you up at school?"と尋ねられ、私の解釈は直訳、つまり「学校まで迎えに来て欲しい?」であった。そこで私は、「そこまで乗り気ではないのだな」と感じて、遠慮してこのオファーを断った。本当に乗り気であったら「迎えにいこうか?(迎えに行くよ。)」くらいの、つまり"I'll pick you up at school."や"Let me pick you up at school."くらいの表現を使うのだろうと考えていたのである。しかしながら、この解釈は誤りであり、こういった解釈のずれはしばしコミュニケーションにおいて大きな障害となることがある。こういった解釈のずれを正すためには正しい「ポライトネス」の理解が必須であり、また現行の教育方法を見直す必要がある。

Chapter 1 What is politeness?

 一章ではポライトネスの概要としてポライトネスとは何か、なぜ生じるのか、またその二分類とは何かを考える。初めに、過去の文献、辞書に基づき自身でポライトネスの定義付けをすると次のようになる。'Politeness is socially correct behavior (speech and action) that provides values to addressees in communication. It also can be expressed through facial expressions, gesture, and voice-tone.'
 次にポライトネスが生じる理由に関して考える。主に、'Social aspect' と 'Psychological aspect'に分類して考えることができ、前者では社会におけるaltruism(利他主義)とcooperation(協力)の力によって人間はポライトな振る舞いをするとされている。また、後者では全人類が普遍的に持つ'face'という概念を用いて説明をすることができる。
 最後にポライトネスの重要な二分類に関して扱う。ポライトネスには大きく二分類、ポジティブポライトネス、ネガティブポライトネスがあるとされている。前者は聞き手にとってプラスになるような情報を扱っているものを指し、また後者は反対にマイナスになるような情報を扱うものを指す。たとえば、"She couldn't be more beautiful."という発言は前者に分類され、"Could you turn that music down a little, please?"という発言は後者に分類される。

Chapter II Politeness from a Pragmatic Perspective

 二章では語用論の観点からポライトネスについて考える。初めに「言外の意味」と「文字通りの意味」に関して考え、その後「間接的であること」がなぜポライトネスと結びつきが強いのかを考える。また、ポライトネスで主に用いられる文法事項に関しても分類別に考える。
 会話の中で、我々が常にliteral meaning(文字通りの意味)と conveyed meaning(派生的意味)を使い分けているという事実を考える機会は少ないかと思う。例えば"Why must you always bang the door?"という発言に対しては次の二通りの解釈ができる。@「なんでいつもドアをばたんと閉めなきゃいけないのか?」A「うるさいからやめてくれない?」Aは派生的意味を含んでおり、つまり話者はAの依頼をするために直接それを言葉にすることなく、間接的に依頼することができる。このindirectness(間接さ)はポライトネスを表現するのにしばし用いられる重要策の一つである。この理由としては、話者は間接的に述べることにより聞き手にとってマイナスとなる情報の度合いを和らげ、また同時に聞き手へのプレッシャーを和らげるためであると考えられている。
 ポライトネスにおいて用いられる主な文法事項には以下が挙げられる。auxiliary verbs(助動詞)、subjunctive mood(仮定法)past tense, continuous aspect, or both(過去形、進行相、または両方)、softeners and a particular type of adverbs(緩衝語と特定種の副詞)である。

Chapter III Politeness from a Sociolinguistic Perspective

 三章では社会言語学の観点からポライトネスを考察する。初めに、ポライトネスに影響を及ぼす主な社会的側面を五つ取り上げてそれぞれを考察する。これらは全社会において共通かつ普遍的に存在し、社会的な縦(職業や会社内での地位)と横(どれくらい親しいのか)の関係、両者間の利害関係の比率、社会的に定められた権利や圧力(店員は一般的にこの程度の振る舞いをするのが当たり前だ、など)、うちとそとの関係(どこまでを自分のテリトリーと見なすのか)の五つである。
 次に異文化比較によって、異文化間で具体的にポライトネスについてどのような違いが生まれるのかを考察する。ここでは英語圏文化と日本語圏文化を比較する。異文化を比較する際には量的差異、質的差異があるとされており、前者は最適とされるポライトネスの度合いの違い、後者はある行為そのものをポライトであるとみなすか否かの違いである。例えば、英語圏、日本語圏の間では謙虚さをポライトネスと結びつける思考が両文化間にあるがその度合いが異なる(量的差異)。一方、個人間の社会における関係構築のしかた、例えば会社において上司と部下、または学校での教師と生徒の一般的な関係は両文化で大きく異なる(質的差異)。英語圏では個を重視して、カジュアルに交流することが珍しくはないが、日本ではそういったことは滅多に見られないと思われる。つまり、ここでは両文化間でのポライトな関係構築への考え方が根本的に異なっているという事である。 。

Chapter IV Application to Learning Polysemous Words

 四章ではケーススタディーとして、実用例をいくつか抜粋してポライトネスを考察する。大きくは二つあり、一つ目は「2020年第一回米大統領選挙候補者討論会」、二つ目は映画'The theory of everything'である。前者では学校教育であまり光を当てられない"Will you…?"の利用や、rhetorical question(修辞疑問)の効果的な使い方を、後者では依頼の際の実用的な仮定法の利用や、それ以外のより間接的な依頼表現を考察する。

Chapter V A Better Way of Teaching Politeness in High School

 第五章では高校教育におけるこの分野のより良い教育法に関して考える。私は、丁寧表現を教える際には二つの分野分けが必須であると考えている。文法事項と実用事項である。文法事項の分野では、コンテクストから離れて文法的観点から丁寧表現を扱う。つまりどういった文法的事項が丁寧表現には用いられるのか、またそれら文法がなぜ特別に丁寧表現に採用されるのかを丁寧に扱っていく必要がある。故に、「助動詞の利用」、「仮定法の利用」、「緩衝表現の利用」、「時制、相の利用」などの文法事項によって分類されており、かつそれらを用いる理由にフォーカスしている教材の利用が好ましい。
 実用事項では、文法事項で学んだことを生かし可能な限り多くの、様々なタイプの例に触れることが求められる。題材には教科書、文法書の会話ダイアログ、さらには小説や映画などからの実用例を用いることも重要である。また、問いを作成する際には多くの表現がある中で「なぜこのコンテクストではこの表現が好ましいのか」ということを考えさせることも、生徒の理解を深めるためには必須であると思われる。

Conclusion

 移動技術や様々なテクノロジーの発展があり、世界はますますグローバル化している。そんな中で昨今、英語の知識は必要不可欠なものとされている。言い換えれば、受験のための読解の知識を超えて、他国の人々とコミュニケーションをとるための知識の習得が必要である。円滑なコミュニケーションをおくるためにポライトネスの知識は必須であり、大部分は高校教育でまかなうことが可能である。ポライトネスに関して適当な知識を高校教育で習得することができれば、日本人の英語の会話スキルは間違いなく向上すると思われる。