A Study of Polysemous Words
(多義語の研究)
68期 AII 類 K. I.
Introduction
この論文の目的は、1つの単語が複数の意味を持っている多義語について、その仕組みを明らかにし、効果的な学習方法について提案することである。customの意味をご存じだろうか。「慣習」のほかに「関税、税関」といった一見全く異なる性質の意味を持っている。このように多義語とは、それぞれの意味があまりに離れているため、多くの日本人が苦手意識を持っているのだ。しかし、実はこれらの意味の間にはいくつかの決まった関係がある。そしてその関係には、メタファー、メトニミー、シネクドキという3種類の認知的基盤が関与しているという。これよりこの3つがどのように働くのかを調査し、その仕組みを利用して多義語の学習方法について検討する。
Chapter I Metaphor
メタファーとは「隠喩」であり、あるものを似ているもので喩えることである。メタファーは次の3つに分類される。
- Structural Metaphor (構造のメタファー)
- Orientational Metaphor (方向づけのメタファー)
- Ontological Metaphor (存在のメタファー)
Chapter II Metonymy
メトニミーとは「換喩」であり、あるものを表すのにそれと密接な関係にあるものに置き換えることである。簡単な例として、The kettle is boiling.という英文を挙げる。直訳すれば「ヤカンが沸いている。」となるが、決してヤカン自体が沸いているのではなく、ヤカンの中の水が沸いている。つまり、ヤカンと密接な関係にある水がヤカンで置き換えられている。このように、メトニミーではkettleが「ヤカンの水」の意味を持つような意味の拡張が起こる。
Chapter III Synecdoche
シネクドキとは「提喩」であり、「種」と「類」の間の転用に用いられている。I saw lots of old faces at the party.という例を挙げるならば、facesは文字通り「顔」の意味を表すのではなく、人全体を指している。ここでは、facesをfriendsに置き換えることができるだろう。このようにfacesという部分的要素を用いて、friendsという全体を表すことがシネクドキによって可能となる。
Chapter IV Application to Learning Polysemous Words
これまでの知識より、多義語学習において必要なのは多義語の中心義(central meaning)と意味関係(semantic relationship)の2点であると考える。まず、中心義がなぜ必要かというと、多義語とはもともと1つの原義から意味が増えていったため、根幹となる語の中心義を明確にしておかなければ、どの意味から別の意味が増えたかの方向がわからなくなってしまうからだ。続いて意味関係についてだが、多義語は持っているそれぞれの意味に必ずメタファー、メトニミー、シネクドキいずれかの関係がある。そしてこれを理解することで、その語の意味ネットワークを形成することが可能になり、暗記も容易になる。現代の英単語帳にはこの意味関係が軽視されているため、多義語で躓く学生が多いのではないだろうか。よって英単語帳には、その意味関係であるメタファー等を明記するのがよいと考える。但し、その関係をより認識しやすくするために、それぞれの意味関係の表記の仕方について以下のようにルールを定める。
メタファー → 関係を具体的に書く。
メトニミー → "close"と書く。
シネクドキ → "part"もしくは"whole"と書く。
実際に名詞のstateと、動詞のconcernにこのルールを適用させると次のような図になる。(尚、赤で囲った枠は中心義を指しており、矢印の向きに意味が展開されていることを示す。)
図のように、stateの場合「国家」とは「統治の状態」のようなものであるためメタファーが用いられていると判断し、言葉を補うことで意味関係を明確にしている。一方concernについては、「心配する気持ちを持って関係する」と「関係する」の部分的要素だと判断し、シネクドキとして処理することができる。こうして中心義と意味関係をはっきりと明記することで、多義語学習はより効果的なものになるのではないだろうか。
Conclusion
この論文では、多義のメカニズムと多義語の効果的な学習方法について提案した。まず多義語とは、メタファー、メトニミー、シネクドキのどれかによって転義が生まれ、そこからさらに転義から転義へと意味が増えていくものであること。そして多義語を学習する際には、中心義とそれぞれの意味的関連をはっきり明記し、頭に意味ネットワークを形成することが有効であること。これらを踏まえ、単なる英単語学習だけでなく、文章の中でその都度学びなおすような、多角的な学習をしていきたい。