A Study of Changes in English Pronunciation
(英語発音変遷の研究)

67期 AII 類 Y. M.

Introduction

 英語の発音は、学校の授業の中ではあまり時間を取って扱われていない。しかし、英語学習者の多くは英語の発音に関する困難を抱えていると考える。本研究では2つの観点に絞って、現代の英語に至るまでの発音の変遷について言及する。1つは、「発音の多様性」である。英語は国際語として様々な地域で使用されており、地域ごとに様々な発音の特徴がある。日本人が一般的に習う英語は標準英語と言われるものであるが、標準英語に慣れた耳で特徴のある英語を聞いた場合、聞き取りにくく、すぐには理解しにくい。もう1つは、「発音と綴り字の乖離」である。ローマ字読みに慣れているため、英単語の綴り字と発音が一致しないことで、発音に困難を感じる英語学習者が多い。この2つの問題には、歴史的な背景がある。英語学習者が感じる発音に対する疑問を英語の歴史の観点から解決できるよう、「発音の多様性」と「発音と綴り字の乖離」の歴史的背景からわかったことを活かして、英語の授業の中での有用な発音の指導法を提案する。

Chapter I Varieties of Pronunciation in Present-day English

 この章では、英語の発音の多様性の背景を地域の面と社会の面の2つの視点から見ていく。英語が多様化した背景の1つに、1066年のノルマンコンクエストが挙げられる。ノルマン征服の後、イギリスの公用語がノルマン・フランス語になり、上流階級ではフランス語が話されるようになる。一方、英語は公用語ではなくなり、イギリスの各地域で独自に話されるようになり、5つの地域なまり(Northern, East Midland, West Midland, Southern and Southeastern)が生まれることとなる。イギリス英語とアメリカ英語の違いが生まれたことや、オーストラリア英語などが生まれたのも、植民をする過程でイギリスの各地域の発音が影響していることが考えられる。
 19世紀には、イギリスのBBCラジオがアナウンサーに、基準となる標準英語を徹底させる。なまりのない英語を話すアナウンサーはエリートと見なされていたが、聴衆に合わせた番組を作る中で次第に標準英語は崩れていくこととなる。同じく18世紀?19世紀には、Cockneyと言われるLondonの労働者のなまりが生まれる。アナウンサーとは違い、Cockneyのなまりは、教育が欠けていると見なされていた。20世紀には、標準英語とCockneyの中間言語であるEstuary Englishも生まれる。
 現在の英語の発音の多様性の背景には、地域による様々な英語と、社会の流れの中で様々に変化する英語が影響していることがわかった。この歴史的背景を知らないまま、英語の聞き取りや発音をする時、英語学習者は混乱すると考えられる。第3章でこの歴史的背景をどのように英語学習者に指導していくかを検討する。

Chapter II What Caused Discrepancies between Pronunciation and Spelling

  この章では、発音と綴り字の乖離がなぜ生じたのかを扱う。主な原因として、大母音推移 (Great Vowel Shift) と 綴り直し (Etymological Re-spelling) が挙げられる。大母音推移の原因の決定的な説はまだ出ていないが、1400年から1700年の間にかけて、
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上記のように母音が変化した。例えば、'meet' は元々/me:t/という発音であったが、大母音推移を経て/mi:t/になった。また、'root'も元々/ro:t/という発音であったが、大母音推移を経て/ru:t/になった。このような母音の推移が、今日の英語の発音と綴り字の乖離を生み出している。
 綴り直しも同様に、発音と綴り字の乖離を生み出している。英語には様々な借用語があり、中でもラテン語からの借用語が多かった。ノルマンコンクエストを経て、中英語期にフランス語を経由して英語に入ってきたラテン語は、英語に入ってくる過程で形が崩れてしまうものが多かった。イギリスでは16世紀にルネサンスが起こり、古典を重視したため、英語に入ってくる過程で崩れたラテン語を、元の形に綴り直していった。このように綴り直された単語の例をいくつか挙げる。

  1. adventure, perfect…
  2. debt, doubt, receipt, subtle…
1に挙げたものは綴り直された文字が発音されるもの、2で挙げたものは綴り直された文字が発音されないものである。私たちが混乱するのは、2の方であろう。
 このような歴史を経て、英語の発音が変化してきていることを知っていれば、「英語はそういうものであるから覚えるしかない」という発音指導ではなく、もっと異なる発音の指導ができると考える。第3章では、発音の指導法を提案する。

Chapter III How to Make Good Use of the Histories of Pronunciation for English Learners

 この章では、第1章と第2章でわかったことを活かして、発音の指導をどのようにすべきか検討する。まず、発音の多様性にどのように適応させるかであるが、私は発音の多様性を知る、慣れるという意味で以下の3つを提案する。

  1. 発音の多様性についてのコラムを、授業で使用するワークシートに載せる
  2. 外国の映画を聞いたり、見たりする機会を増やす
  3. ALTに自国の文化や発音に関することを話してもらう
1に関しては、理解させることが目的ではなく、目に触れる機会を多く作っていきたいと考える。
 発音と綴り字の乖離については、授業の始めの帯活動として発音を練習する機会を設けたい。フォニックスは有用な発音の指導法であるが、フォニックスに変わる発音の指導法として、発音の歴史を活かしたものを提案したい。新出単語以外にも、これまでに習った単語を合わせてフラッシュカードを用いて練習した後、ワークシートで発音の規則性について考えさせたい。また、発展的なものとして、発音の規則性を用いた、カードゲーム(神経衰弱)を行いたい。
※ 裏に発音記号が書かれている単語のカードを机の上に並べ、発音が同じだと思うものを選ぶ。
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規則性を考えさせた後は、発音の多様性のところで扱ったようなコラムなどを用い、発音の変遷の歴史を扱いたい。

Conclusion

 本研究では、発音の変遷について「発音の多様性」と「発音と綴り字の乖離」の2つの面から探り、発音の指導法について提案した。しかし、英語学習者にわかりやすく、興味を持ってもらえる教え方をするには、さらなる研究と分析が必要である。また、実際の授業の中では発音指導以外にも教えるべきものがあるため、学校のカリキュラムとも相談しながら実践していく必要がある。本研究で学んだことをこれからの教師生活の中で、英語学習者がつまずきそうな他の部分に活かしたり、英語の発音から英語そのものに、さらに興味を持ってもらえるような教え方を工夫したりしていきたい。