A Study of Pragmatic Errors in Writing English by Japanese Learners
(日本人学習者のライティングにおける語用論的誤りの研究)
65期 AII 類 Y. I.
Introduction
私は、日本人学習者による英語で書くライティングの語用論的誤りについて研究した。日本人にとって、語彙力や文法力、文章構成能力も必要とされるので、英語でライティングを書くことはすごく難しい。これから高校教育において、センター試験の形式も変わり、今まで以上にライティングが重要視されてくる。また、ライティング能力は、自然に身に付く能力ではなく、第二言語学習者にとっては、学校などで学習しないと身につかない能力であるため、学校での教育が重要になる。そこで、日本人が英語らしい英語を書くのを妨げる要因が何か気になり、この分析をするに至った。この論文では、日本人の誤りの特徴を明らかにし、なぜこのような誤りが起こるのかを語用論の観点から分析した。
Chapter I
この章では、日本人の書き手による誤りについて分析し、日本語と英語の違いが日本人の誤りにどのように影響するかを考えた。Oi (2002)の示す「英語モードで書く英語」と「日本語モードで書く英語」の違いの視点から、主語、述語、話題の発展性の3つのカテゴリーに分類して、誤りのどこから起こるのか分析を行った。
<主語>
・日本人の書く英文は "I"で始まるものが多い。
・文の中に主語が必ずなくてはならないかどうか。
<述語>
・be動詞の多用。
・受身形の多用。
・時制の一致。
<話題の発展性>
・直線的に論理を進めていく英語に対して、日本語は渦巻きの論理を取る。
これらの日本人の英作文の特徴が、ライティングにおける誤りを引き起こすと考えられる。
Chapter II
この章では語用論的誤りがどんなものであるか分析を行った。まず、語用論とは、あるコンテクスト(または文脈)の中で、言語が使用される時の規制や原理、すなわち、ある文や談話(discourse)の解釈にコンテクストがどう関わってくるかを研究する分野だ。言い換えれば、文脈によってある文や会話の解釈が変わってくるのかを考える分野である。語用論の定義は研究者によって異なるため、語用論的能力をはっきりと定義することが難しい。そこで、私はこの研究を行うにあたって、語用論的誤りを次のように定義した。
「談話や文が進行している社会的な状況で、社会的・文化的に適切な言語の使い方における、確固とした規則や普遍的な基準がないために引き起こされる書き手と読み手の解釈の溝。」
この観点から以下の分析を進めていく。 また、Enomoto (2002)は、文章の伝わりやすさの観点から語用論的誤りを6つのカテゴリーに分類した。
- VAG [Vague:不明瞭な] 非構造的に指示内容が明確でない
- AMB [Ambiguous:曖昧な] 構造的に指示内容が明確でない
- MLD [Misleading:誤解を招く] 意図したこととは違う指示内容を指す
- PUD [Pragmatic Universe of Discourse:共有世界] 書き手と読み手の知識が共通する部分および対話が行われる世界の相違
- REF [No referent:指示物の欠如] 文章の中に指示物がない
- MTP [Mixed topics:話題の混在] 内容が一貫していない
Chapter III
「転移」という用語は、一般的には、人が新たな知識を獲得する時にその人がすでに持っている知識がその獲得に体系的に影響を与えることを指すものとして使われる。英語教育においては、母語からの影響のことである。心的態度は、話者が育った文化の中で養われるため、その文化の言語環境や習慣などによる知識が大きく影響する。そのため、異なる文化で育った話者同士のコミュニケーションにおいて、互いに持っている心的態度の違いから、誤解が生まれやすくなってしまうことは容易に想像できる。語用論的転移とは、この転移の定義に、語用論の領域内で起こるものという制限がついたものである。 ライティングにおいて、語用論的転移が誤りを引き起こす。そこで、chapter 1で挙げた日本人の誤りの特徴をchapter 2で示したEnomoto (2002)の分類に「発達上の誤り(DE)」をひとつ付け加えて、分析を行い、結果を次の表にまとめた。
Chapter 1で挙げた日本人の誤りの特徴とその原因- 日本人の書く英文は "I"で始まるものが多い ―― DE
- 文の中に主語が必ずなくてはならないかどうか ―― MLD
- be動詞の多用 ―― DE
- 受身形の多用 ―― AMB
- 時制の一致 ―― VAG
- 直線的論理の英語と渦巻き的論理の日本語 ―― MTP
これらの分析から、DE、MLD、AMB、VAG、MTPといったことが原因で、chapter 1で示した日本人の特徴が誤りにつながることが分かった。
Conclusion
日本人の誤りには、日本語を使う際の習慣からの影響が原因となっており、中には根本的に英語と日本語との違いが原因となっているものがあった。ライティングにおいて、語用論的転移が誤りを引き起こすことがわかった。