Contrastive Studies of English and Japanese
(日英対照 ―イディオムの比較―)

65期 AII 類 A. I.

Introduction

 この論文では、英語と日本語におけるイディオムの比較分析を形式的な視点から行う。イディオムとは、個々の単語の意味からは全体の語の意味が予想できないもの、また、構成要素、文法、意味が固定された表現と定義される。ここでは、イディオムのうち、体の部分が使われているものに特定する。

Chapter I Characteristics of Idioms

 この章では、イディオムの特徴について調査する。石田(2015)は、宮地(1982)のイディオムの定義をもとにして、イディオムの特徴を形式的固定性、統語的固定性、意味的固定性の3つに分けた。また、体の部分が使われるイディオムの特徴を日本語と英語で比較する。日本語で使用頻度の高い部位は、目、手、鼻、口であり、英語で使用頻度が高い部位は手、足、頭、目であった。どちらの言語にも言えたことは、イディオムによく使われる感覚器官は目であったことである。反対に、日本では感覚器官の使用頻度が部位によって差があるのに対し、英語ではさほどなかったことである。そして、英語のイディオムには、単複やアメリカとイギリスでの英語による表現の違いがあった。

Chapter II Formal Frozenness and Idiom Variations

 この章では、イディオムの特徴の形式的固定性と、その変異形について日本語と英語で比較する。形式的固定性とは、イディオムを成す構成要素が、他の語に代用されたり、順番が入れ替わったりしないという特徴である。しかし、この特徴が当てはまらない場合があり、それをイディオムの変異形という。日本語にも英語にも固定されるものと変異形になるものは同じくらい存在した。結果として、形式的固定性の度合いが高いものは、典型的なイディオムとみなすことができ、変異形を多く持つものほど、形式的固定性の度合いが低く、自由度の高いイディオムとみなすことができる。

Chapter III Use of Idioms in an English translation of Japanese Literature

 この章では、吉本ばななの「キッチン」の日本語版、英訳版を用いて、イディオムの扱われ方、表現を比較する。まず、日本語と英語では論理の展開の方法が異なり、日本語は結論に達するのにかなり婉曲的であるのに対し、英語は結論に向かって直線的である。これを参考にし、日本語のイディオムは、英訳ではどのように表現されるのかを調べた。その結果、日本語でイディオムが使われているからといって必ず英訳でもそれに対応するイディオムが使われるわけではないことが分かった。逆に、日本語ではイディオムは使われていなくても、英訳ではイディオムが使われていることもあった。これより、日本語と英語のイディオムの対応は常に行われるわけではなく、話の設定や描写によって臨機応変に行われている。