A Study of Everyday Metaphors
(日常における比喩の研究)

53期 A 類 Y. M.

Introduction

「比喩」と聞くと詩や小説で見られるような修辞的なもの、人々の日常生活にとってあまり馴染みのないものとして考えられがちである。しかし、「比喩」というのは、日常生活のいたるところで見られ、人々の考え方や行動の仕方と大いに関係している。本論文では、「上―下」、「広い―狭い」、「長―短」といった正極にある比喩概念を扱う。また、必要に応じて英語・日本語の両言語での「比喩」の比較も行う。両言語においてどのような同異性があり、それは何を意味するのかを新聞からの引用や諺を用いて述べていく。

Chapter 1 Up-Down Metaphors(「上下」の比喩)

「上下」に見られる比喩的概念を「感情」・「状況」・「力関係」・「地位」・「量」などいくつかの部分に分けて検討する。「状況」を例にとってみると、両言語において人々は良い状況を「上」、悪い状況を「下」と捉えているといえる。

・Consumer sentiment in September shows signs of downturn. (The Japan Times, October 23, 2002)

・米国の景気が落ち込めば落ち込むほど『無い袖は振れない』ということになるのではないかと思います。
(Asahishinbun, November 4, 2004)

例にある 'downturn'は「景気後退」を表す。一般的に景気が後退するという状態は人々にとって良くないものであり、それを 'down'という「下」を用いて表現しているところから、悪い状況を「下」のものとして捉えていることが伺える。
 英語と日本語における「上下」の比喩概念には共通点が多く見られる。これは、「上下」の比喩概念が人間の体の動く向きが「上下」と大きく関わっていることや、日常における経験が影響しているためである。

Chapter 2 Broad-Narrrow Metaphors(「広い―狭い」の比喩)

「広い―狭い」の比喩的概念を扱う。「広い」ことは肯定的な意味で用いられることが多く、「狭い」ということは否定的な意味で用いられることが多い。これは人々の日常生活において、「広い」ということは十分な余裕があり、より多くのものを含めるといった考え方が大きく影響しており、そのため「広い」ということが肯定的に用いられ、反対に「狭い」ということは十分な余裕がなく、制限を加えてしまうという考えから否定的な意味で用いられる。
 両言語において、完全に一致するとまではいえないが、「広い―狭い」という比喩的概念において共通点がみられる。これは、「広い―狭い」の比喩的概念が人々の日常における経験からきているものであるからだと考えられる。

Chapter 3 Long-Short Metaphors(「長―短」の比喩)

「長―短」の比喩的概念を扱う。両言語において、「短い」ということは否定的な意味で用いられることが多い。これは、「短い」ということが「足りない」という概念と関係しているからであるといえる。
 両言語間での「長い」という比喩概念には共通点と相違点がある。共通点は「長い」ということが否定的な意味で使われることである。これは、「長い」ことが「間延びしている」という概念と結びつくためである。相違点は日本語では「長い」ということが肯定的な意味や「力のあるもの」として用いられるということである。これは、日本の文化の中で生み出されてきた独特のものであると考えられる。

Conclusion

比喩概念は人々の生活経験と多くの関わりを持ち、言語観における比喩概念の共通点・相違点は、その概念が生み出された文化と大きく関わっている。

(引用文献)
The Japan Times, October 23, 2002
Asahishinbun, November 4, 2004