A Linguistic Analysis of "Why Don't You Dance?"
("Why Don't You Dance?"の言語学的分析)

52期 II 類 I. O.

Chapter 1 Introduction

作品のあらすじ、レイモンド・カーヴァー(1938-1988)の他の作品や生涯を取り上げ、またこの論述のおおまかな流れを示す

Chapter 2 The Writer's Perspective

この章では、物語における作者の視点を扱う。"Why Don't You Dance?"では、作者には物語中の特定の人物の心理がわかっている、というLimited Omniscientの視点がとられており、その語りは中立的、客観的である。また、多くを語らない淡々としたその語りのために、登場人物への読者の感情移入は避けられがちになる。読者が登場人物について知ることと、登場人物が互いについて知ることは、ほとんど同じなのである。しかし、その視点は局部的に登場人物の内省に向けられる。その転換点において、読者は瞬間的に他の登場人物が知ることのない作中の人物の心中を垣間見せられ、宙ぶらりんな印象を受ける。

Chapter 3 The Remarkable Expressions

この章では、フレーズの反復、登場人物の会話の中の言葉の途切れなど、言語的な表現について考察する。読者は、登場人物の性質や置かれている状況についての十分な情報を与えられていない。また、作品には会話部分が多いが、登場人物の発話の内容は必ずしもその内面と一致するわけではなく、そこで明かされる情報にもそれほど信憑性はない。そのために、読者は自分でそれらを読み取っていく必要がある。そこで有用となるのが、言語的な表現から得られる断片的な情報である。例えば"[You] must be desperate or something."の反復からは、主人公の男性が妻に去られ本当にやけになっていること、やけになっている人物の行動(dance)には何ら重要な意味はないということが知られる。
 また代名詞の使い方に関して言えば、一風異なる効果を与えている。作品では、ストーリーの冒頭で"In the kitchen, he poured another drink and looked at the bedroom suite in his front yard." と、先行する男性名詞を伴わずにheという代名詞が使われる。本来なら先行する男性名詞とともに使われるべきであるが、ここではその前後においても一切heがどんな人物であるかの説明はない。それにはもちろん、heへの読者の興味を引き出す意図があるが、それとは別に、ここに描かれる出来事は特定の人物に起こった出来事ではなく、他のどの男性にでも起こりうる出来事なのだ、という印象を私たちに知らしめる意図があるように思われる。したがって読者は、自分の経験から事態を考えることができる。

Chapter 4 The style of Writing of Carver

この章では、カーヴァーの作風をもとに、作品を考察していく。一般的にカーヴァーはミニマリズムの作家といわれており、非常に規模の小さい、短い作品を書いている。ミニマリズムの特徴としては、?作品のサイズの小さい、?切り詰められた文体の使用、?題材が日常性を持つ、?登場人物を通して描かれる作家の心的態度が受身的、虚無的である、?社会的な広がりの欠如、?暗示性、?現在時制の多用、そして?語り部分での二人称単数の使用、が挙げられる。ただ、カーヴァーの作品はこれらの特徴を全て網羅しているわけではなく、これらの特徴を持つのは、作品のテーマのひとつである「日常に潜む脅威」をより強調するための手段であると考えられる。そもそも、視点を変化させたり、特徴的な表現をしたりするというのは、ミニマリズム的なスタイルで作品を書いているからだと考えられる。

Chapter 5 Conclusion

ここでは、これまでの総括をする。カーヴァーは作品において説明的にはならず、解釈を読者に完全に委ねている。作品には始まりらしい始まりもなければ、終わりらしい終わりもない。ただそこに読者は、登場人物と同じ何かを感じる可能性を持つ。作品のテーマとしては、言語がコミュニケーションの手段として機能しないという日常生活に潜む脅威、伝えられないこと、が挙げられる。