A Study of Voices in English
(英語における態の研究)

51期 II 類 E. Y.

Chapter 1 Introduction

日本の学校での英語教育は、イディオムや構文などの文法事項ばかりが重要視されているように思われる。とりわけ、高等学校でのグラマーの時間には、様々な構文が教えられ、ある構文から別の構文への書き換え問題が頻繁に行われている。私自身もそういった授業を受けてきた経験があるが、そこでひとつ疑問に思うことがあった。それは、別の構文に書き換えても、意味に違いは生じないのか、もしそうならば、どちらか一方だけで充分なのではないかということだった。この疑問をきっかけに、今回、英語における能動態と受動態との違いに焦点を当てた研究に取り組んでみることにした。

Chapter 2 A Comparison of English Voice with Japanese Voice

この章では、英語の態と日本語の態とを比較する。英語、日本語ともに受動態を持つが、その使われ方には大きな違いがある。たとえば、日本語では「やられた」や「誉められた」などといった言い方をよくする。日本語では、話者は受動態を用いることで被害を受けた、もしくは利益を得たという印象を強く伝えることができるからである。このように、日本語の受動態は利害関係を表す際にしばしば使用されるのである。さらに、こういった性質が強められた結果、「○○に泣かれた」のように受け身とは言い難い範疇のことをも心理的受動態という形で表すことが出来るようになったと考えられる。それに対して、英語の受動態にはこういった役割はほとんど見られない。英語では受動態は利害とは関係なく、単に「誰によってなされた」という行動の方向性を表すものとして使われることが多いのである。

Chapter 3 Meaning Difference between the Active Voice and the Passive Voice

ここでは英語に視点を移し、態を交換することによって生じる意味の違いについて論じていく。おそらく多くの人が、「次の能動文を受動文に書き換えよ」といった類の問題を一度は目にしたことがあるだろう。このような問題を見ると、能動態と受動態とは常に交換可能なものであると思いたくなるが、実際には両者の間には大なり小なり意味の違いがあり、場合によっては書き換えが利かないこともある。次の二つの文を比べてみれば、態によって表す意味が異なることは明らかである。

Few people read many books.(たくさん本を読む人はあまりいない。)
Many books are read by few people.(多くの本はわずかな人にしか読まれない。)

能動態の文は読書家の貴重さを表しているが、受動態の文では売れない本の多さを、強いてはベストセラーの貴重さを表す結果となっている。
 これは態を変換したことで起こる大きな意味の違いを示した例だが、他にも小さな意味の違い、ニュアンスの違いを生むことは非常に多い。したがって、安易な書き換えは避けるべきである。自分の述べたい事をよく考えた上で態を選ぶことが大切である。

Chapter 4 The Time when the Passive Voice Is Preferred

二つの態は必ずしも同じ意味を表さないが、その分、それぞれに適した場面や分野が存在するのである。能動態とはほとんどの場合、有生物(特に人間)を主語としているので、より簡潔に、直接的に情報(時には感情)を伝えることができる。その結果、日常会話などの口語的な場面において好まれる傾向にある。
 一方、受動態は能動態に比べ文法構造が複雑なため、日常的な会話には不向きである。しかし、無生物を主語にとることが多い受動態は客観性が高いという特徴を持ち、科学論文や学術雑誌などの分野では多く用いられている。また、受動態は行為者を言及する必要がなく、警告したい内容を文頭で述べることができるため、人々に呼びかける標識にも最適なのである。これは実際に駅前に掲げられている看板である。

Bicycles are not allowed to be left within the zone surrounded by red line on this map.
(この地図上に赤い線で囲まれている区域に自転車を放置することは許されていない。)

Chapter 5 The Middle Voice and the Semi-Passive

EFLである私たちは、受動態と言えば「be動詞+動詞の過去分詞(+ by〜)」という形になっているものと思いがちだが、実は他にもいくつかの形があるのである。その一例として、中間態と半受動態という二つの構文を扱う。これら二つに共通して言えることは、その文法形式と意味とが一致しないということである。以下に例を示す。

"The cup broke into pieces."

これは形の上では能動態である。しかし、意味としては"The cup was broken into pieces."に非常に近い受動的なものになる。逆に"I was a bit surprised at her behavior."という文の場合、受動態の形をとっているが、「私は彼女の行動に少し驚いた。」という能動的な意味になるのである。
 これらの中間的な態を正しく理解するためには、文の形だけでなく、その意味にまで気を配ることが必要なのである。

Chapter 6 Conclusion

英語の態と日本語の態との比較に始まり、英語における能動態と受動態との意味の違いとそれらの使い分け、そして文法形式だけでは解決できない中間態や半受動態の考察を通して強く感じたことは、言葉に隠された話者もしくは筆者の心情や意図を読み取ることの重要性であった。言葉というものは、それを発する人と受け取る人との相互作用であり、その人々の思い入れを無視しては理解できないものだ。ただし、これらを理解することは母国語であってさえも決して容易なことではなく、当然、母国語以外の言葉となれば、困難極まりない。しかし、難しいからといって放っておくのでは何の進歩も望めない。ただ字面を追いかけたり、暗記に終わるのではなく、行間を読む努力をすることでこそ、理解を深めることが出来るのだと思う。