A Linguistic Study of Advertisements
( 広告の言語学的研究 )

49期 II 類 N. O.

■はじめに
この論文では、アメリカやイギリスで普通に売られている雑誌の中にある広告の言語を扱いました。1冊の雑誌でもかなり多くの広告があるので、もしこれに興味を持てば、丸善などの洋書コーナーで1冊買ってみて、自分なりに言語の特徴を考察してみるのもよいでしょう。語彙の用い方や、ある「もの」の表現方法など非常に工夫が凝らされていて、とてもおもしろいです。私が、指導教官の先生と4年次の4月に卒論題目を決定したときに考えていたよりも実際に卒業研究をやってみたほうが、ずっとおもしろく感じました。

Chapter I Introduction

この章では、まず、何故、雑誌の中の広告の言語を扱うかということ、そして、数点の広告の事例を挙げ、広告に用いられている言語の特徴と機能を概要的に考えていきます。そして、この論文の目的である宣伝広告を見てなぜ人々は、それに引きつけられ、購買意欲をそそられるのであろうかということについての問題提起をします。問題提起については、第一に、広告が読者にインパクトを与え、読者がすべての広告内の情報を読みたくなりうるのはどうしてかということ、第二に、広告が読者にそのメッセージを維持させ、製品のよいイメージを与えうることはどうしてかということ、最後に、広告が読者にその製品を「買う」という行動に向かわせうることはどうして起こるかということ、という「広告の言語」と「人間の行動」との間にある流れの関係の観点でレベル分けすることで始めます。

Chapter II Devices to Seek Attention in Advertisements

この章では、読者が「買う」という行為をする前提として、なぜ広告に引きつけられるかということを明らかにしていきます。言語の領域を越え、コミュニケーションの観点から、それは、広告の中の描かれている絵、モデルの表情、文字の字体、大きさ、絵や文字の配置の仕方も考慮するということですが、その理由について考えていきます。広告に読者が引きつけられるということに対して、そのような様々な要因が考えられますが、この論文の目的から逸れてしまうので、大きな文字で書かれている広告の見出し的な部分が、読者の注意を引きつけると考え、次に広告の見出しを詳しく分析、分類することにしました。それらを分析分類すると、大きく4つの特徴を見いだせます。一つは、見出しはコミュニカティブに作られているということです。例えば、疑問文を使い、読者に直接何かを尋ねて、コミュニケーションを取ろうとする方法です。二つ目は、見出しをできるだけ短くするという方法です。そうすることにより、瞬時にメッセージを読者に届けることができます。この中には、例えば、動詞の欠落など、通常の統語的規則を破っているものがあります。三つ目には、見出しをはっきりさせないことで、読者の注意を引こうとする方法です。不定代名詞や、従属節のみで、主節を欠落させ、文を完結させないというやり方が、例えばあります。四つ目には、文をリズミカルにするという方法です。例えば、製品と関連した誰でも知っている歌のフレーズを用い、そのフレーズと、既有する読者の歌の音を融合させることで、リズミカルな音を読者に与えるということです。もちろん、これら4つの範疇に入りきらないものも多く見られますが、それらは例外として個々に扱っています。

Chapter III Devices to Build Favorable Image in Advertisements

この章では、広告が読者に対して商品のよいイメージを与えるために頻繁に用いられている、直喩、隠喩、換喩、提喩、擬人化、などをはじめに取り上げています。特に、擬人化は広告の中に頻繁に用いられる比喩的表現の技巧です。製品を人と見立て、その製品に感情を与え、あたかもその製品が人間のようにふるまい、考えるかのようなイメージを効果的に作り出すことができるということが分かりますし、また、読者に対して製品に対する「親近感」を与えることができます。更に、よいイメージを作り出す方法として、音声を取り上げます。韻律は、ほとんどの広告の言語で用いられています。行末における同音反復、頭韻をはじめとしたリズムが読者の頭に読むことで作られていきます。時には、それらのリズムや音のイメージが製品のもつイメージと合っているときもあります。それは、言語表現から作られる視覚的イメージだけでなく、聴覚からも音的イメージが読者の頭の中に作られていくということになります。

Chapter IV Use of Illocutionary Force in Advertisements

広告の最大の目的は、読者に「買う」という行動に向かわせることであることは言うまでもありません。では、言語学的に、広告の言語はどのようにこの行為を読者に促すのでしょうか。ここでは、言語学者であるオースティン(Austin)が提唱した「発話行為」("Speech Act")という考え方とハリデー(Halliday)が提唱した「対人的機能」("Interpersonal Function")という考え方を、広告の言語に応用させてみました。例えば、「あなたはこの製品があれば、今までできなかったことをすることが可能になります。」という文があります。これは、ただ単に情報を与えているだけども考えることができるでしょう。しかし、この文には人に行動を起こさせる力があるとも考えられないでしょうか。すなわち、上の文は、「この製品を買いなさい。そうすれば、あなたは、そのことができます。」と、命令的にも読めなくはありません。字義通りの意味だけではなくて、その意味の裏にある慣用的意味とも言えうる「発話内的意味」をこの章で考えています。

Chapter V Conclusion

この章では、今まで考えてきた、宣伝広告を見てなぜ人々は、それに引きつけられ、購買意欲をそそられるのであろうかという要因をすべて振り返って、この論文を締めくくりました。

■おわりに
言語材料を扱う中で、広告の言語はどういった特徴があるのか、なかなか形が見えずに、卒論を書き出すのには苦労しました。しかしながら、10冊程度の雑誌の広告を何度も丁寧に考察してゆくにつれ、広告の言語の特徴が体系的に見え、書き出すことができました。その体系的な特徴のようなものが見えたとき、卒論をやってよかったという喜びが初めて感じられると思います。しかし、それまでは、厳しい道のりです。英語学を卒論として扱うときには、なんといってもどれだけたくさんの言語材料を用意し、それらを考察できるかということで勝負が決まると感じました。