A Study of Heroes in American Comics
(アメリカン・コミックスにおけるヒーローの研究)

69期 AI 類 T. N.

Introduction

 アメリカン・コミックスの中でも、最も人気のジャンルはヒーローものである。私がアメリカン・コミックスに興味を持ったのは、『アイアンマン』(2008)という映画を観てからである。斬新な彼の性格に心が惹かれ、アメコミ・ヒーローの映画や原作のアメリカン・コミックスも読むようになり、私はアメコミ・ヒーローが好きになっていった。そういうわけで、私は、この卒業論文で、なぜアメリカン・コミックスではヒーローものが多いのか、またそれぞれのヒーローがどのように誕生したのか、そのヒーローの条件は何であるのかといった観点から、アメコミ・ヒーローについて研究した。

Chapter 1 American Comics and Japanese Comics

 第1章では、アメリカン・コミックスの特徴を浮かび上がらせるために、画像表現、人物の心理表現、セリフといった3つの観点から、日本の漫画と比較考察する。その比較対象の日本の漫画として、日本の漫画の原型を形作った漫画家の手塚治虫と、日本の漫画の伝統にアメリカン・コミックス的な要素を取り入れた大友克洋の漫画を取り上げる。日本の漫画については、型にとらわれずに作者自身の独特の表現を求めていこうとする積極的な作家的姿勢がみられた。日本においては、漫画はよりリアルな表現を求めて、人間の認識行為や心理的反応を視覚的に表現する媒体というところまで発展しているのではないか。また、日本の漫画家は、登場人物の驚きや不安などの様々な心理を顔の表情だけで表現しており、目には見えない登場人物の内なる心理を視覚化しようとする意識が強いようである。そして、その人物の感情に合わせ、セリフが表現されている場面がたくさんあることが明らかになった。アメリカン・コミックスは、CGなどの導入はあっても、絵やコマの表現における先進的変化があまり見られないが、複雑なコマ割りの表現がないことは、読者の物語の理解のしやすさにもつながる。心理描写も、あまり表現されておらず、登場人物の心理が重要な場面では解説的ナレーションで簡単に済ませられる。アメリカン・コミックスは、アクションが主であるために物語を進めるにあたり、より細かな人物の心理描写は必要ではないと考えられているからではないか。セリフや吹き出しに関しては、日本の漫画とアメリカン・コミックスにおいて表現に大きな違いがあまり見られないが、日本の漫画の方がその記号性の開拓においてはより先端的と思われる。

Chapter 2 Makers of American Comic Heroes

 第2章では、アメリカン・コミックスの歴史、アメリカン・コミックスと日本の漫画の制作工程の違いから見えるアメリカン・コミックスの特徴が生まれる要因、そして、アメリカン・コミックスのヒーローの人気を作り上げた人々とその人達が生み出したヒーローの起源について取り上げる。アメリカン・コミックスは1920年代から1950年代頃までは、様々なジャンルが存在していた。ジャンルの多様性が無くなった一つの理由として1954年にフレデリック・ワーサムという精神科医が『無垢への誘惑(Seduction of the Innocent)』を出版し、暴力や流血、性描写などは青少年の非行につながるものであると非難したことが挙げられる。そして、アメリカン・コミックスは分業制で制作され、分担された職種には独自の肩書きが存在しているという特徴がある。分業制のメリットとして、作業効率の良さがあるが、デメリットとして、一人で制作する日本の漫画と比較すると、個性が出にくいことが挙げられる。それぞれのヒーローの起源をたどると、いずれのヒーローもアメリカが何らかの危機に遭遇したときに誕生している。それは、当時の人々がそれぞれのヒーローに戦争を終わらしてほしい、この恐怖をなくしてほしいという願いからではないか。

Chapter 3 Characteristics of Heroes in American Comics

 第3章では、DCコミックスとMARVELコミックスから、1人ずつヒーローを取り上げ、アメリカン・コミックスのヒーローの特質について考える。DCコミックスからは、スーパーマンの最後を描いた『スーパーマンの最期』(1992-1993)、MARVELコミックスからは、スパイダーマンが誕生した『スパイダーマン誕生!』を取り上げる。スーパーマンがヒーローの基本条件を体現した原型であるのに対し、スパイダーマンは本来の単純さが通じなくなった時代に複雑化して現れたアンチ・ヒーローである。ヒーローの条件として、強靭な肉体、普通の人にはない特別な力、善悪が判断できるモラル、自己犠牲の精神が挙げられる。

Conclusion

 日本とアメリカの漫画を比較することで、日本とアメリカの文化の特徴がみられた。日本の漫画は、ジャンルの豊富さから、広い年代の人々に愛されている。一方で、アメリカン・コミックスは特定の世代に人気である。その理由として、アメリカン・コミックスは、ヒーローの起源などがアメリカ社会と大きく関係しているため、社会的問題やほかの国の文化を知るための一つと考えられているからではないか。アメコミ・ヒーローはアメリカの危機が生んだアメリカの文化的ヒーローとも言える存在であり、また、アメリカの夢と力と希望の表現でもある。