A Comparative Study of Peanuts and Sazae-san
(『ピーナッツ』と『サザエさん』との比較研究)

64期 AII 類 K. M.

Introduction

 『ピーナッツ』は、チャールズ・モンロー・シュルツによって、1950年からアメリカで、『サザエさん』は、長谷川町子によって、1945年から日本で連載開始された漫画である。両作とも、初めは新聞紙上の四コマ漫画として連載されていたが、グッズ化、テレビアニメ化、映画化もされ、連載終了後の今に至るまで愛され続けている。しかし、人々を魅了し続ける作品の特徴は、『ピーナッツ』と『サザエさん』との間でそれぞれ異なる。この卒論の目的は、それぞれの国の読者に魅力として受け入れられてきた、それぞれの作品の特徴を比較研究し、その相違点について分析することである。

Chapter 1 Drawings and Speeches in Peanuts and Sazae-san

 Chapter Iでは、それぞれの作品における絵と台詞が果たしている役割や、関わりあいについて調べ、どちらにより重きが置かれているのかを研究した。
『サザエさん』においては、画面が広く取られ、登場人物の居場所や、行動、表情などが事細かに表現されている。それに加えて、広く取られた画面の中に描かれた背景や、生き生きと動く多くの登場人物たち描かれ、それらのような絵よって表される話の中の状況が、作品の面白さに深く関連している。
一方『ピーナッツ』では、『サザエさん』で丁寧に描かれているような、お話の中の状況はあまり表現されていない。画面は狭く取られ、背景や人物の動きが読み取りにくいうえ、登場人物たちの表情の変化も『サザエさん』に比べて乏しいことが多い。これらは、絵によって表現される状況ではなく、文字によって表される、登場人物たちのウィットに富んだ会話が、作品の面白さを担っていることを示している。

Chapter 2 Characters in Peanuts and Sazae-san

 Chapter IIでは、それぞれの登場人物の特徴について調べ、登場人物たちがそれぞれの作品に対してどのような魅力を与えているのかを研究した。
 Chapter Iで述べた通り『ピーナッツ』では、登場人物たちのやりとりが作品の面白さを担っている。だからこそ、そのやりとりを行う登場人物たちの個性にも重きが置かれており、彼らの会話の面白さと、彼らの個性とが深く関わり合っている。その為『ピーナッツ』のなかには、登場人物の個性を理解しているからこそ彼らの会話の面白さが分かる、という話も多数存在する。また『ピーナッツ』は、メインキャラクターたちの個性を強調するため、大人たちがほぼ存在しない、個性的な子どもたちと犬だけの世界、という閉鎖的な作品の世界を描き、読者が生きている現実世界と隔絶された個性的な世界を作品の魅力としている。
 一方、お話の状況に重きをおいている『サザエさん』では、どんな読者の周りにもいるような、ごく一般的な市井の人々が登場人物として描かれている。「サザエさん」という作品はそもそも、主人公・フグ田サザエを取り巻く家族をメインキャラクターとし、彼らの日常における失敗やいたずらを、愉快に描いた作品である。彼らは他の登場人物たちとは区別されているが、彼ら一人ひとりの性格の特徴を見てみると、それらはあまり特定的ではない。読者の多くが思い浮かべる一般的な家族のイメージが集約され、そのまま表現されているのが、メインキャラクター・サザエさん一家なのである。どこにでもいそうな登場人物たち、ありふれた場面設定、それらを含んだ作品世界そのものが、読者の生きる現実世界とより身近に存在しており、読者の共感を呼び、面白さを感じさせる魅力となっている。

Chapter 3 Sense of Humor in Peanuts and Sazae-san

 Chapter IIIでは、Chapter I、Chapter IIで研究したそれぞれの作品の特徴を踏まえ、どのような種類のユーモアが作品の魅力として扱われているのかを比較研究する。 『ピーナッツ』は、個性的な登場人物たちによる会話が主な面白さの要素であり、現実世界とは切り離された閉鎖的な作品世界が魅力である。台詞、つまり文字や文章にお話の肝を任せていることや、個性的で大人びた登場人物たちが自分たちの内面について考えたり、お互いの関係性について考えたりするお話も多いことから、読者にはその面白さを理解する為のある程度の知識や知恵が必要とされる。『ピーナッツ』の面白さは非常に洗練されており、単純なおかしさから大笑いするような面白さではなく、少し考えさせられて、クスッと笑えるような面白さであるといえるだろう。  一方『サザエさん』の魅力は、大衆的な登場人物たち、彼らの一般的な生活の中の小さな失敗と、現実世界へと大きく開かれた作品世界への共感性である。よりよく読者からの共感を得るために、作品世界を大衆的な設定にすること、さらにそれらを絵によっても細かく描写することによって、作品の分かりやすさを重視している。『サザエさん』は、その時代における変化を忠実に細かく取り入れることで、現実世界に共通する世界を描く一方で、誰もが経験し、共感するような失敗の状況を、ユニークな視点でお話として面白おかしく笑いに変えている。よって『サザエさん』の面白さは『ピーナッツ』に比べて、庶民的で親しみやすく、現実での失敗を笑いに変えてくれるような暖かな面白さであると考えた。

Conclusion

 Chapter IからChapter IIIにかけて、『ピーナッツ』と『サザエさん』という漫画作品の異なった特徴について述べてきたが、新聞紙上に連載されていた、つまり、老若男女を読者としていたという共通点から、作品の特徴についてもひとつの共通点が挙げられる。それは、人間の性質や感情を本質的なテーマとしている点である。両作は、以上のように表現方法は違えど、人間が最も身近に感じることができるテーマを選択して表現しているのである。