The Spirit of Black People in Gospel Music
( ゴスペル音楽における黒人の精神)

61期 AII 類 A. F.

Introduction

 この論文では、アメリカ黒人にとってのゴスペル音楽の重要性について考える。ゴスペル音楽とは、アメリカで発展してきたキリスト教の音楽である。ゴスペル音楽を論じるにおいて欠かせないのが、ゴスペルの前身といわれるスピリチュアルという音楽である。スピリチュアルとは、アメリカの黒人奴隷によって作られ、歌われた、キリスト教の宗教音楽である。私がゴスペル音楽について考えようと思ったきっかけは、黒人歌手の歌うスピリチュアルやゴスペルを聴くときに伝わってくる強い感情は一体どこから来ているのだろうと疑問に思ったことである。過去と現在のアメリカ黒人にとって、ゴスペル音楽とはどのようなものであるのかを考えることにより、ゴスペル音楽に表れるアメリカ黒人の精神を探求する。

Chapter 1 The Most Famous Gospel Song “Amazing Grace”

 ゴスペル音楽とはどういうものであるのかを知り、ゴスペル音楽の本質について考えるため、代表的なゴスペルソングである“Amazing Grace”を分析する。この歌の作詞者は、John Newtonというイギリス人の牧師である。彼は元々奴隷船の船員であった。John Newtonは信仰心の薄い若者であったが、奴隷船の中で酷い嵐に遭遇し生き延びた時に神の存在を強く感じ、熱心なキリスト教徒になり後に牧師となった。“Amazing Grace”は、John Newtonが布教のために書いた、自身の魂の再生を描いた歌である。John Newtonは、信仰によって魂の再生をすることができるという希望を人々に与え、神の深い愛と、神を信仰する喜びを伝えようとしたのである。“Amazing Grace”に表れるように、ゴスペル音楽の本質は、神の信仰によって得られる希望を与えることである。

Chapter 2 Brief History of Gospel Music

2.1 Social Background
 17世紀、アフリカ人たちがアメリカに連れて来られ、奴隷貿易が始まった。奴隷に対する扱いは酷く、過酷な生活環境の中で一日中働かされた。黒人奴隷には信仰の自由が与えられず、奴隷主によりキリスト教に改宗させられた。

2.2 Spirituals
 スピリチュアルの作曲者、作詞者は知られておらず、口頭で伝承されてきた。奴隷解放後、Fisk Jubilee Singers(Fisk大学の運用資金を集めるために結成された、学生たちによるコーラスグループ)によってスピリチュアルが広められ、白人にも知られるようになった。

2.3 From Spirituals to Gospel Songs
 スピリチュアルは少しずつスタイルを変え、1930年代に現代のゴスペル音楽の原形が作られた。リズムやメロディーが他のジャンルの音楽の影響を受け始め、楽器を取り入れて演奏されるようになるなど、世俗音楽との融合は音楽スタイルに大きな変化をもたらした。スピリチュアルは作者不明の共同体の歌であるのに比べ、ゴスペルは音楽家個人の作品であるため、歌詞や曲調がより洗練されたものになっている。

Chapter 3 Symbol of Hope for Freedom from Discrimination

 アメリカ黒人にとって、ゴスペル音楽は人種差別撤廃への希望の象徴である。スピリチュアルとゴスペルは元々、憎しみではなく、希望を共有するための歌である。黒人奴隷が苦境の中でも希望を持ち続けたことには、選民思想が関係していると思われる。黒人奴隷は、自分たちが他の人種よりも厳しい苦難が与えられるのは、神によって選ばれた存在であるからだと考えていた。神に選ばれた者であるからいつかは必ず神によって救われると考え、天国ですべての苦しみから解放されるときが来るのを信じていた。スピリチュアルに込められた黒人奴隷の精神は受け継がれ、ゴスペル音楽は今もなお、アメリカ黒人に差別からの自由への希望を与えている。

Chapter 4 Pride and Sense of Unity

4.1 Pride of Black People
 ゴスペル音楽は、現代のアメリカ黒人に、黒人としての誇りを感じさせるものである。彼らの祖先は、人種による苦境において、自らの音楽文化を創り上げてきた。ゴスペル音楽には、忍耐と努力によって奴隷解放を勝ち取り黒人の地位を向上させてきた、祖先の自由への奮闘の歴史が刻まれている。ゴスペルやスピリチュアルは、厳しい苦難を乗り越えてきた祖先の歴史を思い起こさせ、祖先から受け継がれる黒人の精神を誇りに感じさせるものである。

4.2 What Unites Black People
 ゴスペル音楽は、目的に向けて黒人を一つにする力を持っている。公民権運動やベトナム反戦運動の際、スピリチュアルやゴスペルが歌われた。1963年のワシントン大行進では、プロテストソングである“We Shall Overcome”やスピリチュアルの“I Been ‘Burked and I Been Scorned”などが歌われ、参加者の士気を高め、結束を強めた。アメリカ黒人は黒人の歴史を共有し、先祖や自分たちが経験してきた苦難を共有しているため、同志としての絆が強い。先祖の苦難の道のりと強い想いのこもったゴスペル音楽は、アメリカ黒人の心を一つにし、目的のための結束を促す要素の一つである。

Conclusion

 ゴスペル音楽はアメリカ黒人に、結束、誇り、希望を与えるものである。その役割は今も昔も変わっていない。黒人奴隷は苦難の中で、自分たちを神に選ばれた者であると考えることにより、自らのアイデンティティと黒人としての誇りを見出した。スピリチュアルによって共有されたそのような考え方は、彼らの結びつきを強め、自由への希望を保持させた。現代のアメリカ黒人もゴスペル音楽のメッセージを受け継ぎ、祖先が作り上げた歌を歌うことによってアメリカ黒人としての誇りを感じ、人種差別撤廃に向けて結束を強める。ゴスペル音楽は今も昔も変わらず希望の歌である。時代を反映して音楽スタイルを変えながらも、その本質は変わらず受け継がれている。ゴスペル音楽の最も重要な役割は、歌に込められたメッセージを共有させ、困難を乗り越えるためのヒントを与えることである。ゴスペルソングはこれからも人々に希望を与え、歌い継がれるだろう。