A Stylistic Study of American Comics:
An Analysis of The Return of Superman
( アメリカンコミックの文体的研究:『スーパーマンの帰還』の分析 )

59期 AII 類 T. K.

Introduction

Introductionでは、本論に先立ち、コミックが象徴するものは何かということを考察し、卒論の目的を明確にした。コミックは大衆娯楽の一つであり、幼い世代に限らず多くの人々を魅了する。なぜならコミックは人々の持つ潜在意識や無意識の世界に隠れている夢や欲望を表現するからである。たとえば、スーパーマンというヒーローは、絶対的な力に対するアメリカ人の憧れや正義のイデオロギーを表現していると言えるだろう。この卒論では『スーパーマンの帰還』という作品を分析し、それを通してアメリカンコミックの特質とアメリカンコミックが表象するアメリカ社会について理解を深めることを中心課題とした。

Chapter 1 Analysis of Visual Aspects

Chapter 1では、コミックの視覚的側面に焦点を置き、登場人物の心理的描写との関係性について分析した。コミックには多様な表現技法が含まれており、登場人物の心情を間接的に表すものも存在する。たとえば、登場人物を仰視する構図を用いることで、仰視する人物から仰視される人物に対する尊敬や賞賛を表すことがある。しかし、別の場面では仰視される人物の力強さや威圧感などを引き立てる目的で用いられることもある。また、登場人物の顔や体に影をつけることで、落胆や不安などの感情をより鮮明に表すことができる。時には登場人物の全身に影をつけて、その人物の不気味さを強調させる場合もある。さらに、登場人物の顔をクローズアップすることによって、表情の細部まで描くことができ、その人物の怒りや驚きなどの感情を活き活きと表すこともある。登場人物の心理的描写とは関係がないが、対称性のあるコマと非対称性のコマをバランスよく用いることで、描写が単調にならないようにすることもある。その他にも、背景が単に風景を表すためではなく、背景の色遣いが登場人物の心情を間接的に表す場合がある。黒色が絶望や孤独などを表すことがあれば、暖色系の色が安らぎなどを表すこともある。今では多くのコミックに映画的な手法を参考にした表現技法が取り入られるようになり、コミックにおける従来の表現技法は大きく進歩したのである。

Chapter 2 Narrative

Chapter 2では、『スーパーマンの帰還』の物語に着目し、この作品の主題について考えた。この物語はスーパーマンが自身の死を乗り越え、再び人々のヒーローとして復活するまでの過程を描いている。スーパーマンは宿敵Doomsdayとの死闘の末、致命傷を負い力尽きてしまう。スーパーマンの死後、四人のスーパーマン(a cyborged man、a visored man、the man of steel、Superboy)が現れ、それぞれが自分の正義のために悪と戦う。しかし、実は the cyborged superman は昔最愛の人を事故で亡くしており、スーパーマンが彼女を救うことができなかったことを恨んでいた。それゆえ the cyborged man はその復讐としてスーパーマンが愛したメトロポリスを壊滅させることを企てる。スーパーマンはこの計画を阻止するべく復活し、the man of steel と Superboy と共に敵の本拠地であるエンジンシティへと向かう。そこでスーパーマンは the cyborged man との死闘に勝利し、スーパーマンの最愛の人であるロイスのもとへ再び戻るところで物語は締めくくられる。
 四人のスーパーマンは従来のヒーロー像とは異なるヒーロー像を読者に提示する。the cyborged man は他を寄せ付けない超人的な力、the visored man は悪に対する厳格さ、the man of steel は人々に対する優しさ、Superboy は人間としての若さを象徴している。しかし、彼らはスーパーマンのアイデンティティを分化した存在であるため、真のスーパーマンと比べて不完全である。真のスーパーマンとはこれらの要素をすべて兼ね備えている存在なのである。スーパーマンとは単に超人的な力さえ持っていれば良い、人々に対する優しささえ持っていれば良いという、人々の正義に対する概念を彼らは揺さぶるのである。スーパーマンの喪失という経験を通じて、この物語は人々にスーパーマンとはどのような存在であるのかを再び考えさせる機会を与えているのかもしれない。

Chapter 3 The Icon of Superman in American Society

Chapter 3では、アメリカの歴史の変遷の中で、スーパーマンという象徴がどのように変化してきたかという点に注目した。言うまでもなくスーパーマンはアメリカ自身の象徴であり、同時に人々にとっての希望や正義の象徴でもある。しかし、スーパーマンは1933年に誕生してから常に肯定的な象徴として捉えられていた訳ではない。1950年代に青少年に悪影響を与えかねないコミックの一つとして糾弾されたことがあれば、1960年代にはベトナム戦争の余波による社会問題のため、スーパーマンに対する信仰が薄れたこともあった。さらに、バットマンなどの他のスーパーヒーローに一世を風靡されたことで、スーパーヒーローとしての地位を失いかけた経験もしている。そのような逆境下でも、スーパーマンは人々に希望を与える存在として悪と戦い続けた。そして、スーパーマンは自分自身の死という最大の障害を克服することで、再び人々にとってのスーパーヒーローとして復活を遂げるのである。このような様々な経験を通して、スーパーマンはアメリカのポップカルチャーにおける最も有名なスーパーヒーローとしての地位を確立し、多くの人々に愛される象徴となり得たのであろう。

Conclusion

アメリカにおける最も有名なポップカルチャーの一つとして、スーパーマンは多くの人々に支持されてきた。なぜならスーパーマンはアメリカ人の気質に非常に合っており、人々が望む正義の形を具現しているからである。また、読者をコミックに注目させる表現技法が至る所にちりばめられており、且つ物語自体も秀逸であるため、スーパーマンはアメリカンコミックの傑作の一つと言っても過言ではないであろう。国境や性別などに関わらず、スーパーマンは世界中の多くの人々に愛され、人々に希望を与えるスーパーヒーローとしてこれからも悪と戦い続けるのである。