このコーナーでは、これまで私が(また共同研究で)作ってきた教材や教具、そして授業を紹介しようと考えています。ゆくゆくは教材、授業発掘館のようなものにしていきたいと思っています。ダウンロードはご自由に。

 これまで以下のような教材、授業を作ってきました。雑誌などで報告をしたものもありますが、未発表のものもあります。多少コメントもつけながら、紹介します。



君はキョウビト?アヅマビト?(中学1年・総合学習)ーー1999年

物語」が生まれる時(小2・国語)ーーー1997年


君はキョウビト?アヅマビト?(1999年)

*三重県の伊賀地方は「忍者」で有名ですが、違う意味でもとてもおもしろい地域です。ちょうど、日本の東西文化の境界線が走っている場所なのです。
 そのことを「カップメン」のEとWがどちらとも手に入れることができる、という事実によって生徒にとらえさせることはできないだろうか、またそのことが自分たちの住んでいる地域を再発見するきっかけにならないだろうか、という問題意識で作った授業です。
 幸い、伊賀地方のある中学校で授業をやらせていただくことができました(中学一年生)。その報告です。「総合的な学習の時間」も多少意識しています。『授業づくりネットワーク』2000年4月号に「アブストラクト」を報告しましたが、ここに掲載するのは、
『三重大学総合教育センター紀要』20号掲載(予定)のフル報告です。(写真付き)

はじめに

 三重県はとてもおもしろい県である。地勢的には紀伊半島に属しながら、鈴鹿山脈によって半島の他の地域とは隔てられているし、南北に長く、気候風土、あるいは文化を含めてひとかたまりとして把握することができない。他の県のように求心力のある県庁所在地が名実ともに中心となっているわけでもなく(人口数から見るだけでも四日市、鈴鹿の方が津よりも大きい。)、個性的な地方都市(例えば、伊勢、上野、熊野)が存在する。

 文化的に見ても、地勢と同様に周囲からまるで「綱引き」をされているように感じる。北からは名古屋・中京圏、西からは大阪・関西圏、南からは紀伊圏に強く影響を受けながら、独特の混合文化を構成している。

 「三重県は近畿地方だろうか、それとも中部地方だろうか」とことあるたびに聞いてみている。三重県の教師のサ−クル、学生(三重大)など、いろいろな人々に聞いてみたが、中部地方と答える人もいれば、近畿地方と答える人もいる。「東海三県というし、中部電力、ガスだし・・」とう意見がある一方「津で話していることばは名古屋弁とは違うし、どちらかと言うと関西弁に近いから」と言う。ちなみに学校教育では三重県は近畿地方と教えられている。1) 三重県のレベルでもそうだが、伊賀上野地方はさらに複雑だ。伊賀上野地方といっても一様ではないが、大阪通勤のサラリ−マンのベッドタウンとして開発されたニュ−タウンが存在するように、近畿圏とのつながりは三重の他の地域よりも強い。このような情況の中でそこに住んでいる人々はいったいどんな意識をもって暮らしを営んでいるのだろう、きわめて素朴な問題意識からこの授業づくりは始まった。

 以下、1.教育内容研究、2.教材研究、3.指導案、4.授業記録と考察、の順で述べていく。ただし、この順序は記述の便宜上のためであって、時間的な経過と対応しているわけではない。実際の授業づくりの過程は、とくに1から3までの部分については、行ったり来たりの繰り返しの連続であった。

1.教育内容研究−−われわれにとって「地域」とは何か−−

 今回の指導要領の改訂で創設されることになった「総合的な学習の時間」において例示された学習のテ−マのひとつに、「地域や学校の特色に応じた課題」が挙げられた。地域を問題解決の場とし地域の課題を学習に取り入れようとする試みだと思うが、われわれと地域とのかかわりは現代にあっては一筋縄ではいかない問題を含みこんでいる。

 マクロな分析から始めよう。20世紀とは国民国家興隆の時代であって、誰もが国民国家という装置を世界の秩序維持にとって、自分自身の幸福にとってきわめて有効なものであることを信じた時代であるといってよいだろう。

 しかし、世紀末になって私たちが予想もしなかった大きな変動が起こりつつある。すなわち冷戦が崩壊し、ユ−ゴ紛争や旧ソビエトに見られるように地域主義やエスニ−が台頭してきた。さらにグロ−バル化の流れにあって国家の政治的、経済的な役割はこれまで以上により衰退しつつある。つまり国民国家がそれほど安定したシステムでないことに多くの人々が気付き始めた。人々は自らのアイデンティティのありかを新たに探さねばならなくなった。地域や民族がその受皿として登場したのも必然的な歴史の流れであった。日本においてはどうだろうか。「日本のような人々の国家への依存度がつよく、民間の側に国家に代わって人々の受皿が用意されていないようなところでは、国家の役割の縮小は、そのまま日本人としての凝集力の衰退を導きやすいのである」と野田宣雄(『二十世紀をどう見るか』文芸春秋)は今日の危機状況を指摘する。 

 国を二分、三分するような民族の存在しない日本においては、受皿として考えられるのは「地域」しかない。だが「地域社会」は日本では崩壊しつつあるといってよいだろう。地域社会の主体であった企業は独占化、あるいはその支配の系列化に組み込まれ、独立性のある主体としての地位を失ってしまった。商品の流通、人々の行き来の拡大によって、地域経済圏を描くことが困難になり、個人の通勤圏、購買圏ですらその輪郭を描くことが困難になってしまった。人口の大都市集中によって、多くの地域が沈滞し、地域格差が大きくなる。そのために社会安定策がとられ、公共政策は地域間の平等化を主な課題とするようになった。地方自治体の行政の役割は増大し、地域社会は国家の統治機構の一環としての性格を強く持つようになる。一方、消費生活に関わる機能は外部化し、市場メカニズムにおける充足と公共サ−ビスに依存する傾向は強まり、地域社会の連帯は弱体化する。こうして地域社会は空洞化する。

 現代にあっては、行政区分としてしてはともかく、「地域」「地域社会」が実態として存在し、私たちの生活に重要な機能を果たしているかといえば疑問であると言わざるを得ない。たしかに物理的な空間として地域は存在する。だが、生産、消費の一切がその空間で行なわれる「地域」はもうすでに過去のものである。

 大都市の引力圏ではなく、周囲を山に囲まれた阿山町においても、状況は変わらない。阿山町の幹線である25、163号線沿いにはロ−ソン 、ファミリ−マ−ト、サ−クルKなどのコンビニエンスストアが並びたち、平準化された消費サ−ビスを提供している。豊かな自然を残す阿山町は一方では多くのゴルフ場を持ち、大都市圏から多くのゴルファ−を迎え入れているのである。子どもたちは確かに「地域」で生きている。しかし、彼らと地域の経済つながりとは、例えば自転車でコンビニエンスストアに行って雑誌を読んだり、カップラ−メンを買ったりすることである。

 それでは地域はそこで生きていく私たちにとって何の意味も持ち得ないのであろうか。閉じられた空間としての「地域」「地域社会」の解体は人々にある一定の物理的な豊かさを与える過程でもあった。どの地域においても平準化されたサ−ビスを享受できる量的な豊かさの拡充が質的な豊かさへの要求へと道を開く。そして「本当の豊かさとは何か」という問いは必然的に私たちを再び地域へと向けさせる。地域の自然、地域の伝統や産業に目を向け、地域固有のさまざまな自然、人的資源に目を向けさせる。さらに高齢社会の到来や医療福祉の問題は、地域社会をその解決主体として再び登場させ、そこに住む人々の関係を見なおさざるを得なくなる。

 人々の地域に対する現在のイメ−ジはさまざまなものであろう。どこまでの範囲を自分のアイデンティティの依拠する地域と考えるのか、そのことだけでも多様であろう。その多様性を認めた上で、ある一つの肯定的な地域像を提起することはきわめて重要な課題であると考える。

2.教材研究

 阿山町の概要(インタ−ネット阿山町ホ−ムペ−ジ)を紹介しよう。

 三重県の北西部、伊賀盆地の北側に位置しています。大阪、名古屋から100q圏域内と、中部と近畿の中間になり、京都からおよそ60qにあります。
 また、周囲を山に囲まれた本町は、内陸性気候に属し、底冷えが厳しく、気温の較差が大きいのが特徴です。

 京都との近さは意外だったが、「中部と近畿の中間になり」とあるように、その「中間性」が意識されている。おそらく混在文化のいくつかの証を発見することができるのではないか。 東と西、あるいは中部と関西を分かつ指標としていくつかのものが考えられる。例えば物理的な距離や気候、植性の共通性や相違性、また資本系列やテレビ番組などの共通性、相違性、あるいは「ことば」の親近性、交通の利便性など。指標には自然や物理的距離のように不変のものから可変的なもの(例えば資本の系列)まで存在する。

 「食文化」はその土地の自然や気候によってはぐくまれると同時に、人間の移動や情報の伝播によって動き、テリトリ−を形成する。カップうどんの場合、消費者の嗜好を資本が取り入れるという判断もそこに介在するという意味では、二重の可変性を持ったものである。味の東西、が存在することは私も知っていたが、カップうどんにEWの違いがあり、EWの販売の境界線が三重県であることは知らなかった。しかも伊賀地方にはEWが混在しているというのだ。2)

 このカップうどんをてがかりに、文化の混在地域である伊賀地方(阿山町を含む)のおもしろさ(「文化の交差点」)に迫るような授業はできないものだろうか。舌を刺激し、そこからさまざまな文化の有り様に誘うことはできないだろうか。

 カップうどんをさっそく調べてみた。EWの違いは製品の種類として「きつねうどん」系に限られている。(てんぷらうどんにEWの別はない)

 日清「どん兵衛きつねうどん」−−E W

 まるちゃん「赤いきつねうどん」−E W

 エ−スコック「力うどん」  −−O T

 この3つの製品を指標にして、三重大学から私の家まで(津関線、名阪国道、163号線)沿 いのコンビニエンスストア、ス−パ−をしらみつぶしに調査してみた。(25店)

 結果)

@ 日清の「どん兵衛」についてはすべての店 においてあった。「まるちゃんの赤いきつね」は少数ながら置いていない店があった。「力うどん」については4店しか置いてなかった。すがきやの「きつねうどん」もあったがこれにはEWの別はなかった。

A 「日清のどん兵衛」「まるちゃんの赤いき つね」どちらとも置いてある店では両方ともEまたはWであり、どちらか一方がEやWということはなかった。

B 大手ス−パ−4店では、アコレ阿山、アピ タがEでジャスコ伊賀上野店、ジョイシティ(オ−クワ)がWであった。ちょうど東、西の位置に対応しており、その境界線は服部川であった。

   コンビニエンスストアではWを置いてあるもっとも東は名阪国道の伊賀サ−ビスエリアのロ−ソンだった。163号線沿いでは印代の ロ−ソンで、それより西にあるコンビニ(ファミリ−マ−トやケ−マ−ト)でEが売られていた。京都府に入るとすべての店でWとなる。(おそらく大阪資本系と東京資本系の違いだと思われる)

C 伊賀地方のコンビニエンスストアを歩いていると、テレビ番組雑誌や情報雑誌の「関西版」「中部版」どちらとも置いてある店が多く、また新聞やスポ−ツ新聞も同様であった。

  それにしても、コンビニエンスストアを歩いていてあらためて思ったことだが、同じカップうどんが同じ値段でどの店にも売られている。便利で簡単なインスタント食品が沿線上どこでも手に入るわけだが、それは一方ではきわめて画一的な平準化された商品なのである。

 大きなス−パ−におけるEWの違いが明らかになったことで授業化に見通しがついた。

 一時間の「飛込み授業」であること、また総合学習という性格上、生徒たちに問題提起ができればよいと考えた。生徒が自分の住む伊賀地方(阿山町)を東西の「文化の交差点」としておもしろい地域だと感じることができ、自分もなにか調べてみたいなと思うことができれば成功である。次のような指導案をたてた。

3.指導案

君は「キョウビト」?「アズマビト」?−−「東西の文化の交差点」としての伊賀・阿山町(総合学習)指導案

1.自己紹介(2分)――省略―

2.導入(10分)

 『クイズを出します。3つのヒントを言いますので、それが何県かをあててください。一つのヒントでわかってしまったら手をあげてください。

@ 金のしゃちほこ、織田信長、〜だが−

A 西陣織、清水寺、平安京

B 吉本新喜劇、たこやき、アホ

C 真珠、鈴鹿サ−キット、コンビナ−ト

 これのヒントは、その土地をうまく表していますよね。今日は、阿山町でどんなクイズができるか、みなさん方に作ってもらおうと思います。そしてできたクイズをいろいろな人に広めたいと思います。大学でもやってみようと思います』

『阿山町−−−どんなところですか?』

*自由に言ってもらう。「モクモクファ−ム」とか「〇〇」とか出てくるだろう。板書する。

『そのクイズづくりに役に立つかわかりませんが、私はこのあたりが日本でも、とてもおもしろい所であることを知りました』

『「探偵ナイトスク−プ」という番組を知っていますか。知っている人?

あの番組がもとになってこんな本ができています』

 『全国アホ・バカ分布考』−−板書する。

『この本の中に、こんなことが書いてあります。「アホとタワケを隔てるのが鈴鹿山脈である」』

 鈴鹿山脈を地図で確認する。そして問う。

 『みなさんはアホとタワケ、とちらを使いますか』

 アホの人−−何人、タワケの人−−何人と板書する。

 『みなさんのおうちの人はどうですか』

 アホの人−−何人、タワケの人−−何人と板書する。

 『このあたりが、日本の東西の境目になっているらしいのです。こればすごいことです。こんなところは他にはありません』

3.メインの活動(25分)

 『これから「まるちゃんの赤いきつねうどん」を食べてもらいます。「まるちゃんの赤いきつねうどん」食べたことありますか。4人グル−プで2つのうどんを食べてもらいます。給食前だと思いますので、お腹がへっていることと思います。今日は特別校長先生に許可をいただきました』

*『食べてみてどうでしたか』

 『何か感じたことはありませんか』

*『生徒からどのくらい意見が出るだろうか』*東(E)と西(W)の違いを押さえる。

4.広げる(13分)

 『さてこの「まるちゃんのきつねうどん」ですが、どちらがおいしかったですか』

 東(E)と西(W)で手を挙げてもらう。

『東(E)の人−−あなたは「アズマビト」と呼びましょう。西(W)の人−−あなたは「キョウビト」と呼びましょう』

 163号線の地図を描く。そしてアコレ阿山、 ジャスコ伊賀上野、アピタ、ジョイシティを描いてEとWを貼りつけていく。線を引き、こちらは西、こちらは東とする。

 『こうすると、阿山は東日本の端ということになります。「まるちゃんの赤いきつねうどん」で163号線は東西に分けられます。その線に よると阿山町は東に入ることになります。それでいいでしょうか。え−、そうかな。阿山は西に入るんちゃうん、という人いませんか。阿山が西日本だという証拠ありませんか。』

「自分たちはアホとつかう。大阪弁に近い」 「お父さん、大阪に通っている」

*指導案を考える際にもっとも悩んだのが最後の部分だった。当初は「アズマビト」と「キョウビト」に分かれてディベ−ト的に「阿山町が東か西か」の討論を組織したいと考えた。しかしそうした経験が少なく、また授業の流れ(班体制になっている、時間の少なさ)から諦めざるを得なかった。問題を投げかけて終わりたかったので以上のような「阿山町は東のはしだ」と断定して「揺さぶり」をかけることにした。 その結果についてはもう一度授業の考察で触れたい。

<準備物>

@ 三重県の立体地図(鈴鹿山脈の位置と大きさや形態がわかるもの)

A 163号線を拡大した巻き物式白地図

B 松本修『全国アホ・バカ分布考』新潮文庫C まるちゃんのきつねうどん(30個、東−−15個、西−−15個)

  (「どん兵衛」も一応用意)

  割り箸−−150膳

  紙コップ−−90個

  お湯−−−かなりの量

 *参考資料(「まるちゃん」の原材料)

 まるちゃんE

 まるちゃんW

 油揚げ麺

 油揚げ麺

 味付け油揚げ

 味付け油揚げ

 食塩

 食塩

 醤油

 砂糖

 たまご

 醤油

 粉末かつおぶし

 たまご、かまぼこ

 かまぼこ

 粉末かつおぶし

 こんぶ

 こんぶ

 砂糖

 煮干し

 ねぎ

 ねぎ

 七味唐辛子

 七味唐辛子

 調味料(アミノ酸等)

 調味料(アミノ酸等

 リン酸塩(Na)

 リン酸塩(Na)

 炭酸カルシウム

 炭酸カルシウム

 カラメル色素

 カラメル色素

 レシチン

 レシチン

 紅麹色素

 紅麹色素

 ビタミンB

 ビタミンB

 ビタミンB

 ビタミンB

 カロチン色素

 カロチン色素

* EWの大きな違いは、Wには入っている「 煮干し」がEには入っていないことである。* 小さな違いとしては、砂糖がWでは上位に くること、かつおぶしがEでは上位にくるこ とである。(おそらく上からの順番は量グラ ム数によるものだと思われる)

*全体のカロリ−もちがう。Eが417カロリ−  に対してWは416カロリ−である。

4.授業記録と考察

 授業は、99年10月13日、阿山町阿山中学校1年C組において行われた。授業者は森脇自身である。以下に授業記録を掲載する。授業記録は、ビデオテ−プから筆者自身が起こしたものである。(なお、撮影者は大学院生の板倉保代) 授業者自身による記録作成のため、教師の行為については一人称による記述となっている。授業の翌日、研究室ゼミにおいてビデオ記録をもとに検討を行った。その検討の内容は、ストップモ−ション記録に生かすようにした。

1.都道府県名あてクイズ

 簡単な自己紹介のあと、さっそくクイズに入る。都道府県名当てクイズである。

 『頭をやわらかくしてもらうためにクイズを用意してきました。都道府県名あてクイズです。例えばね。国会議事堂といえば?』

 「東京」

 『そう、東京です。ヒントを三つ言います。一つずつ言っていくのでわかった人はだまって手を挙げてください。』

 『金の鯱(しゃちほこ)』

 生徒の中でざわめきが起こる。十人あまり手を挙げる。次のヒントを言う。

 『織田信長。二つのヒントを重ね合わせて考えて下さい』「あ−あ」という生徒の声。少し手の数が増える。

 『それでは三つ目を言います。「たわけ」』 一番最初に手を挙げていた生徒に当てる。 「愛知」

 『ピンポンです。名古屋と思った人がいるかもしれませんが、都道府県名です。それでは今度は難しいです。』

 『西陣織』

 一人だけ手を挙げる。

 『あ!すごい。わかった人がいる。それではあててみましょう』と言って当てる。

 「京都」

 『ピ−ンポンですね。すごいですね』

 期せずして全体から拍手が起きる。生徒の中からも「すご−い」という声が起きる。

 『これはなかなか当たらないと思いました。そのこと(織物)に興味がないとなかなか知らないかもしれませんね。ちなみにあと二つのヒントは、清水寺と平安京です』

 『じゃ、今度はわかるかもしれないな。吉本新喜劇。たこやき。(ちょっと間を置いて)アホ。』

 多くの生徒が手を挙げる。

 「大阪」

 『はい、ピンポンです』

 『さあ、最後。これは当たらないといけません。真珠。鈴鹿サ−キット。四日市コンビナ−ト』ほとんど全員の生徒が手を挙げる。

 「三重県」

 『はい、その通りです』

(ストッ゚モ-ション)
 クイを使ったこの導入には3つの意図があった

@ 雰囲気をやわらかくすること何でも言えるような楽しい雰囲気を作りたかっそのためにクイは好都合と考えた
A その土地の名前と特徴を結びつけることを意識させる特徴はとりあえずどんなことでもよい。「クイづくりをするためには特徴を考えればよいことになる
B 特徴の中にことば食物を入れておいたこうした指標も有りだということとともに後の展開の伏線として考えていた

 『では今度は、クイズづくりに挑戦してみたいと思います。阿山町といえばどんなヒントを出せばよいでしょうか』 

 生徒たちからは、「伊賀焼」「伊賀豚」「伊賀牛」などの特徴が出された。

2.「アホ」と「たわけ」

 『私も阿山町についてある一つのおもしろいことを発見しました。探偵ナイトスク−プという番組を知っていますか(生徒たちはあまり知らなかった)。その番組がもとになってこんな本ができました。「全国アホ・バカ分布考」という本です。東京では「バカ」と言いますね。大阪では同じことを「アホ」と言います。どうもことばには東と西の境界線がある。それがどこかというと(三重県の立体地図を示しながら)鈴鹿山脈だというわけです。阿山町はちょうどこの辺りですね。鈴鹿山脈の西では「アホ」ということばが使われるわけですが東では「たわけ」が使われると書いてあります』

 『みなさん、日常生活で「たわけ」と使いますか』生徒たちからは「いいや」という声。

 『「たわけ」ってどんなに言うか、愛知県出身の人に言ってもらいましょうか。大学院の板倉さんにやってもらいます。』

(板倉)「目上の人が目下の人にこんな言い方をします。『おまえ、何やっとるんだ。タケ −!』」 

 『「タワケ」はワを小さく、そしてケを大きく発音して伸ばすのですね。みんなで言ってみましょうか』

 全員で二回「タケ−!」と唱和した。

            (ここまで15分)

(ストッ゚モ-ション)

 「゙カ」「アホ」ということばで日本の東西が分けられるというこの-マあるテレ番組から生まれたものであるこの番組は視聴者の調査への参加そして効果的な゚レ゙ンテ-ションにも支えられて大きな反響を呼んだこの鈴鹿山脈の西ふもとに阿山町は位置するつまり東西の境目の少なくとも近くに阿山町があることを生徒たちに紹介したかったせっかく立体地図を生かした説明ができればよかった。「鈴鹿山脈は標高は低いが峻険な山並みが続くなど

3.きつねうどん(カップメン)を食べる

 『もう一つ今日やってみたい実験があります。カップうどんを食べてみることです。4人グル−プになってください。カップうどんを2つずつ配りますので両方とも食べてみてください。食べてみて気づいたことや思ったことを頭の中にメモしておいてください』

 4人グル−プに2個ずつ(「まるちゃん」のきつねうどんのEとW)を配り、紙コップを人数掛ける2、割り箸を人数の余分目に配った。お湯を入れて食べるという活動に入った。

 生徒たちから、「テレビで見た。関西味は・・・・」という声が聞こえてくる。

 「とうがらしは入れていいの?」

 『とうがらしは入れたいかもしれないけど、今日は入れないでください』

 生徒たちは楽しそうに食べている。カップメンに対する拒絶感はなさそうである。

 「こっちは(ス−プが)白くて、こっちは黒っぽい」

 「どっちもおいしい」

 「こっちがいい」

 「ここにEとWって書いてある」

 などという声がする。

(ストッ゚モ-ション)
@ 「まるちゃんのきつねうどんEWの二種類を各゙ル-に配った。「清のどん兵衛にしなかったのは味の違い見た目の違いがよりはっきりとしているからである。「両方とも食べてみてください以外には情報を与えていない徒の気づきを大切にしたかったからである
A  生徒の中からEWの違いの発言が出てきているがこれは前夜ある゙ラエテ番組でちょうどカッうどんにおけるEWの違いを-マにしていたという事情があった。テレ番組では、「どん兵衛をもとにその味の違いの秘密そして東西の境界が三重県であることが放映された私は見ていなかったがこのクラスの数人の生徒は見ていたらしい

           (ここまで35分)

 およそ、両方を味わったところを見計らって生徒たちに聞いた。

 『食べてみて思ったことや気づいたことを各班から一つずつだしてもらいましょうか』 

 「EWと二つの味がある」 

 『今EとWの二つがある、という意見でしたが証拠はありますか』

 「書いてある」

 『どこに?』

 「うどんの横」

 『他に気づいたことありませんか』

 「色の薄いのと色の濃いのがある。薄いのがこんぶだしで濃いのはかつおだし」

 その意見に対し、「それ言ったらあかんで」(おそらく、テレビ番組で仕入れた情報をそんなに早く言ったらダメ、ということだろうと思う)

 『証拠はありますか。本当ですか』

 「テレビで言ってた」

 『どこに書いてありますか。テレビが言ったことは正しいとは限りません』

 「ほんとだ。両方ともどっちも入っている」 「でもどっちかが強いねん」

 『ほかにありませんか』

 「カロリ−がちがう」

(ストッ゚モ-ション)
@ 生徒たちに対するテレ゙メ゙ィアの影響力は強い。「テレで言っていたとが本当だという観念には揺るぎないものがある。「証拠を探してみての指示に対してもあまり多くの生徒が動こうとはしなかったこの時点で生徒がテレで得た情報をすべて出させるべきだった。テレ闘う覚悟を決めるべきだったかもしれないただこの時点では見通しが持てなかった
A  時間が気になっていたのですべての生徒が食べおわらないうちに、「食べながでもいいから聞いてほしいという形で生徒とのやりとりを始めてしまった授業自体けじめがつかなかったせいでさわがしいままの状態が続いてしまった十分時間をとって活動を行った上できちっとけりをつけるべきだったと思う

4.君は「アヅマビト」それとも「キョウビト 」?

 『EとW、二つのカップメンに大きな違いがあることがわかりましたね。ちょっと聞いてみたいのですが、みなさんはどちらの方がおいしいと思いましたか。Eの色の濃い方?それともWの色の薄い方?』

 Eと答えた生徒が9人。Wと答えた生徒が23人だった。生徒も自分と違う味覚の持ち主がいることに「エッ!!」と驚く。

 『Eをおいしいと言った人。その人たちを東人(アヅマビト)、Wをおいしいと言った人。その人たちを京人(キョウビト)と呼びます。さて、ここからはテレビにないことです。今二つに分かれましたね。ここがこの地のおもしろいところです』

 と言って地図(阿山と島が原の25千分の1の地図を合わせて拡大したもの25、163号線は赤色で木津川は青色で塗ってある)を出す。

 『これはこの辺の地図です。右が東で左が西。阿山中学校はこの辺り。さて、みなさんはどこに買物に行きますか。(アピタという声)阿山中学校に近い「アコレ阿山」、ここではEとW、どちらを売っているでしょうか』

 「E」という声

 『そうです。Eです』と言って、Eのマ−クを貼る。

 『それではアピタは?』

 「E」という声が多い。その通りと言ってEを貼る。

 『ジャスコはどうでしょうか?』

 「E」という声が多い。

 『E−−ではなくて実はWなんです』と言ってWを貼る。生徒からはざわめき。

 『ついでにオオクワ。オオクワはどうでしょうか』

 「W」

 『その通り』と言ってWのマ−クをつける。 『アピタで買物をすればEが手に入る。ジャスコで買物をすればWが手に入る。どうも「まるちゃんのきつねうどん」だけで言うと、この川の橋、服部川の新服部橋が東西の分け目ということが言えるんですね』

 いろいろなつぶやきが聞こえる。「じゃあ、いつも買うのはこれやろ。こっちを買うには・・・」「新服部橋わたらんとこ・・」

(ストッ゚モ-ション)
@ 沿線のコン゙ニエンスストアについても調査をしたが系列によって東西の線引が異なるため大手--だけを取り上げたもちろん後で生徒が調べてっていたということになっても十分構わないと考えていた。「系列によって異なること自体がまたおもしろい問題である
A  「ア゙マ゙ト」「キョヴト」とあえでルを貼ったことについてはそう言われてそうだとかそうでないと考えるきっかけになるのではないかと思ったからである。ラ゙ル自体がおおざっぱすぎるという批判もあろうが生徒の感想を見るかぎり自らのアイ゙ンティティを意識するきっかけにはなったようである
B 「E」「W」どちらにも手を挙げなかった生徒がいた判断が難しかったかもしれないと思って先に進んだ.後で指摘を受けたがどちらともまずいあるいはどちらともおいしいという生徒がいたかもしれないとちらともまずいという生徒がその意見を出せる機会があればまた違った展開(例えばインスタント食品自体の問題に迫るとか)になったかもしれない

5.東西に分ける「ものさし」は他にないか

 『この分け方で言うと、阿山町に住んでいるみなさんは東の人となるわけなんですけども、いや、そうじゃないんじゃないの?という人いませんか。いや私は西だという人?』

 一人手を挙げたので指すと「濃い味はいやだ」と答えた。

 『あなたはたまたま東の人なんだけど、西の味が好きだということかもしれないね。でもね、いや阿山町自体が西なのだ、という人いませんか?』

 『まるちゃんのきつねうどんという「ものさし」で見るとここは東ということになるけど、他の「ものさし」で見ると違うかもしれない。他の「ものさし」って考え付きません。

 と言って、「どん兵衛」を取出した。

 『どん兵衛にもEWがあります。でも私の調べた結果ではまるちゃんと同じでした。東でいいでしょうか。テレビで見るとどうでしょうか。あるいはタイガ−スファンが多いとか。「ものさし」を見つけだして調べてほしいと思います』            (以上49分)

(ストッ゚モ-ション)
@阿山町は東の一部とあえてしたのは味は薄い方が好きという生徒の中に阿山町は西だという異論を期待したからである異論はでたが、「自分は薄い方が好きだという個人の趣味が根拠になっていたので上のようなコメントをした東西を分ける他のものさしの存在へと生徒を誘いたかったがなぜ西と東と分けなければならないのか生徒に切実感がなかったむしろ素直になぜ自分はこういう味が好きなのかということを考えさせることでよかったと思われる味の好みは個人の勝手趣味だということしかし地域的にははっきりと差が出るものなのだということを確認すればよかった阿山町を含む伊賀地方がその東西の境目なのだということである
A しかもどん兵衛を違うものさしとして出したのは失敗だったかえって生徒の意識を限定してしまったのではないかと思われる。「ものさしという言葉を出す前にどん兵衛を紹介すればよかったという意見をもらった

授業の成果と課題

 授業後の生徒の感想文を分析してみよう。

 資料としての意味を考慮し、34名の感想文をすべてを掲載する。

同じカッうどんが地域によって分かれているとは知りませんでした今度カッうどん を買ったとき注意して見てみようと思いました

私はカッ゚メンE」W」があってびっくりしましたどれでも同じ味だと思ってい たけどこれにも東人と京人というふうに分かれていてこんな「カッ゚メン」だけど すい味とこい味があってすごいと思ったしすごくびっくりしました

 私はどちらかというと京人(うすい味)ほうがおいしかったです

うまかったうどんが

Wの方がおしかったぼくはやっぱり京人の方だと思った

森脇先生の授業はとてもおもしろかったです言葉のちがいやうどんとかの味のちがいは ここらが境界線だというのがびっくりしましたこんな楽しい授業ができてとてもよかった と思います一時間だけだったけどとても楽しい授業でした

・ア゚タとか-クワでうどんの味がちがうということが分かっておもしろかった色のこい 方がおいしかった

うどんがうまかったこれからばョイシティにうどんを買いにいこうと思った東と西で はこんなに言葉がちがうんだなと思った都道府県名あて-ムが楽しかった

森脇先生の授業で私は初めてたわけって知りましたあとうどんがおいしかったです私はEと書いてあるカツオのうどんがよかったです私は東人だったけど生まれはこの三 阿山町ではなく大阪奈良ですそれでも私は京人なんだなと思いました楽しかっ たです

ぼくはとっちもおいしかったけど西でうっているのがいいと思ったここらでかわるので びっくりしたこれからはいろいろな店で買って味のちがいを楽しみたい

授業中に食べたのは初めてだったとてもうれしかったですこうゆう授業をもっとしたか ったです最初のクイもしたけど私は言葉は関西だったし食物のうどんもWの方がお いしかったですとても楽しい授業でした

私が先生を初めて見たとき、「楽しい授業できるかなあとかいろいろ思いましたでも実 際授業してみるといろいろおもしろいことがあふれだしてきて楽しくてHappyでし でもたった一時間だったのでいまからもりあげられる!!と思ったところでチャイ ムがなってしまったので、ショックでしたまたきかいがあったらよろしくお願いしますありがとうございました

すこしカッ゚メンテレでやっていたのでわかっていましたがわからなかったことをお しえてもらってよかったですおいしかったけどきゅうしょくまえなのできゅうしょくを たべるのがくろうしました

ぼくはテレでやっていたからすぐわかりましたうどんはうなかったもっとほしかった給食を食べるのがくろうした

私ははっきり言ってこの授業はおもしろかったです(楽しかったです)これはいとう家の しょくたくでみてうす味とこい味があったんあや!」と思っていました本当は食べたい なあと思っていたらたべられました私はこい味の方が好きですこんど2つともかって みたいです

うどんがおいしかった私はEですね!!とても興味深いおはなしでたのしかったです  EWで分けてあるなんて初めてしりました EWではちがいがあると分かりましたまたきてください

私はカッ゚メンE」W」というちがいがあったなんて知りませんでしたEはこ  Wはうすいということも分かりましたこれからはしっかり見て買いたいと思いますほかにも県名あてというクイもできて楽しかったです

私はカッめんを食べて自分は意外と京人に近いということが分かりましたでも味の感 じ方で自分が東人京人かが分かるというのにはすごくおどろきました県名あて クイはわからないのもあったけどその地域の名所などいろいろなことが分かってけっ こう勉強になったと思いましたとても楽しい授業になって良かったです

うどんもおしかったしうどんも東と西にわけられていると思わなかった

Wの方がおいしかった

うどんをたべれてよかったし自分が東人 京人 わかってなんとなくよかったですそれと うどんおいしかったです

ぼくはWがいい

すごくたのしいじゅぎょうでしたわたしはW」のほうが好きでした

京人は誰がなんと言っても絶対最強でも三重もいいね!だって東人と京人の境目だからでもオレEのうどんは線より多くお湯を入れるそれに愛知に親戚10人以上いるけど 、タワケではなかったような気がする愛知って何‰が-ル(意味 完全)東人なの ? 気になりますおしえに来てください

うどんがおいしかった

2種類のうどんを食べたのはたのしかった2種類食べてみて東と西ではずいぶん味 とかがちがうことが分かった私は味がうすい方がよかったから京人だということが分かっ

うどんが濃い味とうすい味にわかれてると初めて知ったしかもそのさかい目が服部川と知 ってびっくりしたうどんをたべた感想 東の濃い味のほうがおいしかった

私は森脇先生のじゅぎょうで思ったことはたわけということばがおもしろいと思いまし うどんもおいしかったですありがとうございました

授業中に食べ物を食べることがめずらしくておもしろかったですこの辺の地域でもこい味 とうすい味に分かれてることに゙ックリしました他にも始めにやった問題もおもしろかっ たですすずか山脈で方言がわかれているということも知りましたいろんなことを知った 楽しい授業でした

うどんうまかったですどんべいもたべたかったですよくわかりました

・ラ-メンのほうがよかった

VERYたのしかったVERYおいしかったVERYおもしろかったぼくは色のうす い方のうどんが好きですつくえの上にお湯がこぼれたときがやばかった

私は森脇先生の授業をしてとってもおもしろかったですうどんとうどんをたべてとっても おいしかったです授業では食べ物をたべたのは森脇先生の授業だけでした私はその日だ けうきうきしたきぶんで学校にきましたとってもおもしろい授業になったのでよかったと おもった本当にありがとうございました

阿山町のもんだいをだしたとき伊賀ぶたや伊賀焼とこたえがでましたがあの3もじ(〇◯ )の中のこたえはいったいなにだったのだろう?うどんはうすいほうがおいしかった

・「うどんを食べると聞いた時なぜ?と思った東と西とでは味がちがってはっとり川 がさかいだとは知らなかった楽しく授業ができた

 生徒の感想文は一時間の「学びの履歴」を正確に反映するものであるとは必ずしも言えないが、推測する根拠とはなる。一人一人が授業を通してどんなことを考えたのか知るためには、やはり感想文は有力な手がかりである。
 34人の感想からまず言えることは、すべての生徒が「うどんを食べた」ことに触れていることである。「ラ−メンの方がよかった」という生徒を含めて、彼らにとってこの授業の主活動は「うどんを食べたこと」であった。「うどんを食べてどうだったか」に対して「おいしかった」「授業で食べられるなんて」という素朴な感想も含めて肯定的に受けとめられたと思う。 二つのうどんの味の違いについて、同じ製品なのに違いがあることへの驚き(テレビを見ていなかった生徒からが多かった)、そしてそれはEWの違い、つまり東と西の味の違いなのだということへの驚きを表現している生徒も多かった。(16
 自分が食べてみてどちらがおいしかったかを記述している生徒は16人いたが、その中で自分を「アズマビト」「キョウビト」と規定されたことに触れたのが6人いた。おおざっぱなラベ リングだが、意外に効果的だったと思う。その中には自分の出身や三重県のおもしろさに言及している生徒がいたからである。また、両方とも味わうことのできる伊賀地方、東西の境目がこのあたりだということに言及した生徒が12人いたことも特筆される。
 生徒たちは、両方とも味わえるこの地域の「メリット」に目が向いている。授業としては、他の「ものさし」に目を向けさせるよりは、「両方とも手に入るこの地のメリット」と特徴づけを行なってまとめた方がよかったかもしれない。導入にクイズを使ったが、クイズは楽しかったという感想を持った生徒も、それはそれとして楽しかったという感想だった。授業のまとめとして「カップうどん、東と西、どちらとも買って味を楽しめる地域、はどこでしょう」というようなクイズができますね、と「東西の食文化の交差点」を強調した方がよかったかもしれない。

 注 

1)「近畿地方はどこまで」という新聞記事(朝日新聞 8848)では以下のように紹介されている。

 「国土地理院『定義はありません。地理院の 地図には、近畿、中部といった表記はしてい ません』。

  気象庁『天気予報の近畿は、三重を含まな い二府四県です』。

  国土庁『近畿圏整備法では三重、福井を含 み、一方、中部圏開発整備法には、三重、福 井、滋賀を入れています』。

  正井泰雄・立正大学教授(地理学)『もと もとは畿内(山城、大和、河内、摂津、和泉 )とその周辺を言い、時代とともにその範囲 が広がりました。学校教育では明治初め、地 域を区分すれば教えやすいので、三重を含む 二府五県に決めたのです。今は自由ですが、 大部分の教科書はその区分を続けています。 学問的には定義がないので、各分野の使いや すい区分でいいでしょう』。」

2)毎日新聞(1999年8月20日) の「イブニングアイ」で「味の関ケ原は伊賀地方にあり」という記事でカップうどんのE Wが紹介された。

近現代史の授業
授業:「物語」の生まれる時(1997年)

*この授業は、ジャンニ・ロダーリというイタリアの童話作家の『ファンタジーの文法』筑摩文庫を読んで、とても感動して作った授業です。常々、物語には構造があり、しかも文法がある、と考えてきました。ロダーリはそのことを具体化してみせ、幼稚園の子どもたちに物語を作らせてみるという試みをしています。この授業を作ってから、国語の作文として「想像作文」というものがあること、国語の教科書に「4枚の写真を見て物語りを作ろう」というような活動があることを知りました。
 ただ、とても簡単に「物語づくり」が楽しめる、しかも低学年でも十分に行うことができる、ということで収録することにしました。
 「物語づくり」には他にもいろいろな方法があります。娘が小さな頃、また姪とも遊んでみましたが、とても受けたのが、「物語の連作」です。それも簡単です。あるところまでをこちらが物語りを作り、その後を子どもが作り、またその続きをこちらで続けるのです。単にそれだけですが、小さな子どもでも一時間くらいはこれにはまります。お試しあれ。

         「物語」の生まれる時            


                                                       1997年10月20日富山学級にて
                                                              熊野市の小学校2年生                                                                                                                                                  森脇健夫

構想

 子どもの中に「物語」が生まれる時とはどんな時だろうか。それはおそらく既有の経験と認識があらたな経験や知識とぶつかる時(矛盾を持つ)時ではないだろうか。新たな経験、知識と対峙し、矛盾を感じた時、子どもは自分の経験との接合をはかる。そこに「物語」が生まれるのだ。
 この授業では、相矛盾する二つの「ことば」・「イメージ」を用いて子どもの中に「物語」を生成させ、それを表現させることをめざす。具体的には「ことば」・「イメージ」をつなぐ「想像作文」を作らせる。 
  参考文献 ジャンニ・ロダ−リ『ファンタジ−の文法』ちくま文庫

      教師の活動

      子どもの活動

  挨拶(名前を黒板に書いて教える)

  みんな、「浦島太郎」「桃太郎」「かぐや姫」知っている?知っている人?

  じゃ、このお話をつくった人だれか知っている?先生も知りません。

  でも、先生の持っている魔法の箱を使えばだれでも、「浦島太郎」のようなたのしいお話を作ることができます。

と言っておもむろに箱をだす。

 おそらく全員知っていると思う。

 
全員しらないだろう。







 ここまで5分

  箱の中から「犬」と「タンス」の言葉・絵を出す。そして並べて黒板に貼る。

  「さて、この二つのことばをみてください。ぜんぜんつながらないね。でもね、こんなふうに考えてみるとおもしろいよ。たとえば、タンスの中を自分のねぐらとしている犬、タンスを背負って歩いている犬。

  その例文を黒板に書く。こんな例で他に考えつくことありませんか。






 例えば「タンスにいつも吠える犬」

「タンスとけんかをする犬」とか

  さて、そこまでいったら、それはどうしてだろうね。どうしてその犬はタンスの中をねぐらにしちゃったのかな。外に自分の小屋があるのに。

  どうして「タンスの中だとよく眠れるのかな?」

  なるほど、それらをつなげていったらもうりっぱなお話になります。

「タンスの中だとよく眠れるから」

 「主人のにおいがするから」

   


         ここまで15分

  それでは、今度はきみたちの番だ。また「まほうのはこ」に登場してもらおう。今度はきみたちにカ−ドをひいてもらおう。

 男の子一人、女の子一人にカ−ドをひいてもらうよ。

 A「くじら」「いるか」「たこ」「いか」

 B「三輪車」「てれび」「耳かき」

 ◯◯はどんな◯◯かな。大きいかな小さいかな。やさしいかな、おこっているかな、友達はいるかな

  ××はどんな××かな。◯◯は××のことをどう思っているかな。

  十分想像させる。絵にしてもよい。
















 ◯◯と××をノ−トにうつす。

            ここまで25分

  200字の原稿用紙を配る。「頭の中に浮かんできたお話を原稿用紙に書いてごらん。」

  20分くらいかかると思うが、もし時間が余ったら、早くできている子どもの「お話」を読む。

*実はこのとき風邪をひいてしまい、大学院生(当時)だった大竹さんに授業をしてもらいました。子どもたちはたいへんのって活動にとりくんでくれました。できあがった子どもの作文をいくつか紹介しましょう。子どもが選んだのは、「ほうき」と「たこ」でした。この全くつながりのない両者を結びつけるときに、「物語」が生まれます。この授業をしに和歌山県に近い熊野まででかけ、前夜、一生懸命、絵を描きました。それも今となってはとてもいい思い出です。

あゆみ

 むかしほうきのすきな、たこがいました。ある日そのたこが、一本のほうきを、みつけました。そのたこは、ほうきをのさきのはくところにくっつきました。そのほうきのもちぬしは、ほうきをうちへもってかえり、さっそくそのほうきではきました。たこは、土が目にはいり、いたくてたまらなくなってしまいたこは、しんでしまいました。そのほうきのもちぬしは、ほうきがはきにくいのにきがついて、そのたこを、ゆでてたべてしまいました。

ほうきとたこ(岡本和恵)

 ほうきが、たこの、足にくっついているゴミを、はいた。ほうきは、いのちを、かけて、たこのゴミを、とった。すみを、はいたら、もつところ( )が、さびるからだ。すみが、かかったが、さびたのは( )だった。

ほうきとたこ(大井やすよ)

 たこがほうきにくっついて いっしょうはなれないようになって、たこがおなかがすいてもほうきがおもくてうごけません。とうとうたこがしんじゃって さいごにほうきがおそうじしてた。人げんが たこがひっついているほうきでそうじしていると、たこがいっしゅんうごいた。でも人げんはたこがいることがわかりません。あとはないしょ。

ほうきとたこ(西あやか)

 むかしむかしとってもきのうのことです。ほうき(わ)とたこ(わ)、たこがいえ(お)ほうきでそうじ(お)しているとわからへんなおとがきこえました。たこ(わ)ど(わ)のちかくにちがずいてみるとたこのおかあさんがど(わ)をたたいていたのです。たこのこ(わ)びっくりしたよ だれかとおもったよ・・・またど(わ)でへんなおとがきこえた。たこのおかあさんがびっくりしました。だれだれそとでなんかのおとがしました。はやくいえにいれてくれとだれかがさけびました。 と(わ)をあけるとたこのおとうさんでした。ほうき(わ)みんなにつかえわれました。たこのかぞく(わ)やっぱりかぞくでしょうほうき(わ)たこのかぞくのなかでくらしました。よかったでしょう。

(有馬たくや)

 ほうきが、たこのうちに、おちてきた、そしてたこは、ほうきで口のなかにいれて、それからほうきが、ぬけなくなって、そのとき、さめがきていそいですみをだそうとしたけど、ほうきで、すみがでなかったから、ほうきで、たたいて、ほうきのさまのとんがっとるところで、目をさして、さめがほうきを、とったそのとき、たこの口からすみを、だして、さめは、たんこぶとかが、いたくて、さめは、しんでいって、またたこは、口にほうきを、つっこんだ、それからたこは、たこほうきというなまえになりました。

たことほうき(松谷ひかる)

 むかしたこが、ほうきでごみをはいて、いえをきれいにしていました。あるひサメがたこをたべてしまいました。たこは、サメのエサになりました。つぎのひ、ほうきをみつけました。「これでサメのおなかをつつこう」っとそのとき、サメがあたらしいエサをみつけました。それでい(胃)までながされてとかされてしんでしまいました。おわり

たことほうき(阪口)

 たこがほうきでそうじをしていたら、ほうきがうごきだして「こんにちわほくほうきの国からやってきました」 ほうきがしゃべったのでもうたこはびっくりぎょうてん。おもわずころんでしまいました。ほうきくんが「ほうきの国(え)いこうよ」と手をつかんでほうきくんはとびました。ずっととびました そしてやっとつきました。 たこくんはおもわず「わっ」とこえをあげてしまいました。それ(わ)すごいこと そのすごいこと ゆうえんちはあるしおしろもあるし「ちょっときて。」といってまたたこくんの手をつかんでおしろのなかにつれていきました。「父さん母さんぼくがつれてきたたこくんだよ。」「いらっしゃい。」ここ(わ)ゆかいなまちだからゆっくりあそんでいきなさい。」とほうきのお母さんがいいました。そしてたっぷりあそんでかえるときがきました。「これをもっておあえり。」とたからばこをもらいました。そしてかえってたからばこあけたらすごいかねにすごいたからでたこくんはしあわせにくらしましたとさ。 めでたしめでたし。













「イルカが上がった日」