ヤムシ(矢虫・arrow worm)・・・毛顎動物門の通称で、この動物
門は約100種ほど からなる小さなグループです。
その多くはプランクトン性で(Sagitta属に代表され
る)、わずかに底生性のものも(Spadella属に代表される)います。
普通、後者を特 にイソヤムシ類と呼んで前者と区別します。普通、後者を特にイソヤムシ類と呼んで
前者と区別します。
プランクトン性のヤムシは沿岸から外洋、表層から深層まであら
ゆる海域に生息し、バイオマスも大きいため海洋生態では重要である上に、海流の指標動物としても扱われています。
大きさは数mmから数cmですが、体が軟弱なために プランクトンネットで採集するとヤムシの体は痛んでしまいます。
状態が良く得られ たヤムシは透明で、その名の示すように矢のような体形で、背腹方向に胴部をすばや
く動かして遊泳する姿は実に美しいのです。
しかし、かなり獰猛な面もあり、肉食性である彼らは頭部にある顎毛で餌をつかみ、ちょう
どヘビが餌を丸呑みするように自分の頭部よりも大きなものをも捕食する。毛顎動物という名称もこの顕著
な顎毛に由来します。
発生様式からヤムシは、脊椎動物と同じ後口動物の仲間に入れられます。
すなわち、放射 卵割による胞胚、陥入による典型的な原腸胚を形成し,成体の口は原口に由来しません。
しかし、他の後口動 物と比べると、口部や体腔の形成のされ方が異なったり、幼生期がないため変態をしないという相違点もあります。
神経系の形態などをみると前口動物のそれに極めて類似しており、主要な神経節は頭部背側と胴部腹側
にあります。
これらのことから、系統的に毛顎動物はどの動物グループに近縁なのかという問題があります。
これは ヤムシを扱う研究者の持つ共通の興味点です。
最近の分子系統学研究によれば、ヤムシはかなり早い時
期に他の動物から分岐して独自の道を辿ってきたことが示唆されています。
興味深い動物であるにもかかわらず、ヤムシに関する実験的研究はあまり進んでいません。
このことはヤムシを実験室で維持することが難 しいことに起因すると思われます。
前述のように浮遊性のヤムシは軟弱ですが、底生性のヤムシであるイソヤム
シという仲間は比較的丈夫で、ヨ−ロッパの臨海実験所などでは流水タンクの中にヤムシがわいていることもあるといいます。
日本でも3種のイソヤムシの生息が知られ、その内の1種であるカエデイソヤムシ(写真)が行動や
生理学的実験に適しており、実験材料確保のために累代飼育も工夫してきました。
安定して飼育をするには時間 がかかり、未だ改善の必要も多いのですが、数年前から累代飼育も可能となりました。
海産無脊椎動物の実験的研究で は、多くの場合、採集個体を用いることにより遺伝的背景を追えないという弱点があります。
累代飼育が可能で あるイソヤムシ類は、実験動物としての確立を目指すことのできる数少ない海産無脊椎動物と言えるでしょう。 |